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突如、サマエルの目前に何かが落ちてきて辺りを土煙で覆った。それは岩のような肌に見上げるほど大きな身体を持つ巨人だった。
人間の作った話に登場するものから、ティターン、もしくはタイタンと呼ばれているそれは崩壊を上げた。大きく腕を振り上げ、足元のサマエル目掛けて巨大な拳を振り下ろす。
「前は確かケルベロスだったな。まあそれはなんでもいい」
サマエルは避ける素振りも見せず、大岩そのものとも言える拳を受けた。辺りにまた土煙が上がった。
「殺すことに変わりは無いからな」
巨人の身体が震える。サマエルは片手でティターンの拳を顔色一つ変えずに止めていた。対してティターンは全力を出して眼下のサマエルを叩き潰そうとするが、拳が動かない。サマエルは居酒屋ののれんを手で退けるように、ティターンの拳を払う。大地が砕け、轟音が遠くまで響く。それにサマエルは片目を瞑って顔を顰めた。
「やっぱかわした方がよかったか……音で耳が痛いな、これは」
ティターンは何が起きたのか分からず固まっている。サマエルがとん、と地面を蹴ると一瞬でティターンの肩に立っていた。
「ああ、そうだ。ある程度の状況を思考するだけの知能はあるんだったか」
そう呟き、大鎌をひと振りしてティターンの肩から飛び降りた。サマエルの足が地面に着くと同時に、ティターンの大岩の様な頭が飛んだ。頭が大きな音を立てて地に落ち、続いて塔の様に大きい身体が倒れた。
「こいつを静かに殺るのは地味に面倒なんだよな……。圧殺すれば済むが、泥や体液が洒落にならん。この後を考えると、あまり汚れてるのは格好がつかないし」
サマエルは後ろを見ず、歩き出す。遠くから何かの咆哮や、大きな何かが走ってくるような音が聞こえる。それにサマエルはため息をついた。ティターンが倒れた轟音に、魔獣が反応したらしい。
「こちらから喧嘩は売らない主義なんだが、まあ」
前方から来る津波のような大群を睨み、大鎌を構えた。
「必要な喧嘩なら、買ってやろう」
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