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三つ首の怪物、ケルベロスの群れがサマエルに向かってきた。
「私一人なぞ、お前らには腹の足しにもならんだろうに……」
サマエルを食おうとする頭は次々と切り落とされ、切り裂こうとする爪も脚ごと切られる。
「犬の爪切りは定期的に……と言っても、野良犬の手入れをする者なぞいないか」
一斉に襲いかかるケルベロスをかわし、大鎌を振るってケルベロス達を上下真っ二つにする。
「というか一斉に来るのはやめてくれ。この辺りの力関係を崩したくないし、何より動物虐待は嫌いなんだ」
すると、一際大きい個体がサマエルに襲いかかる。それをかわし、息を吐いた。
「上位種……まあ、群れの長なら当然か」
サマエルは飛びかかってくる群れの長を見据え、大鎌を一度消した。群れの長は大きな口を開け、サマエルを飲み込もうとした。
「伏せ」
瞬間、サマエルは左右の頭を両手で、中央の頭を足で押さえつけた。轟音と共に群れの長の大きな三つの頭は地面に押さえつけられる。群れの長はサマエルの手足を振り払おうと暴れるが、押さえつけられている頭だけは全く動かせない。その様子を見た他のケルベロスは、数頭は後ずさり、既に逃げ出しているものもいた。
「こういうのは好きじゃないんだが……まあ、無闇無意味な殺しはしたくないからな」
サマエルは自分を睨みながら唸る三つの頭に、冷たい声で言った。
「座れ」
群れの長の身体が大きくはねた。次に固まり、震え出した。その様子を見て、サマエルはゆっくりと頭を押さえる手足を離した。
体の自由を得た群れの長はゆっくりと頭を上げ、犬の芸の『お座り』をした。
「伏せ」
サマエルにそう言われた群れの長は、自ら体を地に伏せる。悪魔でさえ恐れる凶暴な上位のケルベロスの威厳は無く、ただの犬と化していた。よし、と言ってサマエルは群れの長であったケルベロスの頭を順番に撫でる。
「お前の仲間に、私を襲わないように伝えろ。いいな?」
三つの頭は理解しているのか、小さく頷く。まだ僅かに震えているが、サマエルは気にしていなかった。
「よし。行け」
その言葉に返すように三つの頭が短く吠え、逃げ出すように走っていく。それを見てサマエルは呟く。
「うちで飼うだけの余裕は無いからな……まあ頭の硬い天使達がOKするとも思えないし」
大鎌を出し、また歩き出す。
「次は……動物虐待はしたくないってのに。いっそここらの上位種、慣らしておくか?」
遠くから聞こえる咆哮に、何度目か分からないため息をついた。
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