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少し時間は戻り、地獄、ルシファー派閥領地。そこには恐ろしい数の悪魔がいた。
それらの前に長い黒髪とコートを揺らしながら、ルシファーが立つ。
「よく集まってくれたな、我が同胞たち」
ルシファーの声が聞こえ、悪魔たちは途端に静かになる。
「いよいよ戦いが始まる。天界との、大きな戦いが。……その前に、聞きたいことがある」
「お前達は、殺すのは好きか?」
それに答えるように、悪魔たちは叫び吠える。
「結構。なら天使共の肉や精神を貪り食らうのは? 地面に無様に転がる奴らを見下ろし笑うのは? 抵抗できないやつを嬲り殺し、陵辱するのは?」
悪魔達から歓喜の声が上がる。同意する声、歓喜の奇声、雄叫び。
「結構! それらを叶えるためならば、俺のために死ぬことはできるか!?」
歓喜の声はやまず、中にはルシファーの名を讃えるものさえいる。
「結構結構大いに結構! これは俺のための戦争だ! 聖戦などと謳ったが、ンな綺麗なもんじゃねえ。俺一人のための宴、俺のためだけのパーティーだ。 天界のやつらも、テメェらも! どうおっ死のうが俺にゃ関係ねえ。殺せ! 叫べ! 天界の天使共の血を葡萄酒に、骨をパンにし、神の肉をローストチキンの代わりにしようじゃねえか!! メインディッシュのチキンは渡さねえ。だが酒とパンは腐るほど来る。天使と悪魔、互いに醜く、無様に食い合う中、それを肴に俺はたった一人の観客としてイカれた宴を楽しむ。マリア様がゲロ吐いて泣いて震えるのを、俺は優しく言ってやる。これはあんたの息子が望んだ景色のひとつなのさ。地獄絵図こそが、俺の望む景色だと! 演者はテメェら全員だ!! お前らはどう歌う? どう踊る!?」
多くの悪魔達がバラバラに叫ぶ。言葉になっていなくても、その意味は同じだ。
切り殺す! 焼き殺せ! 引きちぎり殺す! 圧殺だ! 発狂死こそ至高! 溺死だ! 芸術の爆殺! 撃ち殺しちまえ! 感電死だ!
死だ! 殺せ! 殺せ、殺せ殺せ! 天使に死を!
おぞましい言葉と声に、ルシファーは空を仰いで高笑いを上げた。
「素晴らしい! なんとも素晴らしい答えだ! ああ最高だ、絶頂さえ覚えてしまいそうだ!! そうだ、殺せ! 天に属する者を皆殺しにしろ!! 涙を流し、震え、命乞いをする者を笑いながら嬲り殺せ! 勇ましく掛かってくる者は複数人で囲い殺せ! 遠くから狙ってくる者は先に撃ち殺せ! 空から来る者を叩き落とし、その翼を引きちぎり殺せ! 誇り? 正義? そんなものは必要ねぇ!! 欲のままにあれ! 欲望のままにやれ!!」
狂気と歓喜が響く中、地獄が大きく揺れる。天界の軍が進行してきたのだ。
「さあ、宴の始まりだ! 怒りの、欲の、憎悪の悲劇と喜劇の幕開けだ! さあ行け! たった一人のカーテンコール、狂宴の果て、たった一人喝采の為に!!」
悪魔たちは天界軍が攻め込んでくる方向へと向かっていった。
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