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天界、第六天、死の天使本部。死の天使の隊員達はみなざわついていた。これからの戦いを楽しみにしている者もいるが、不安そうな表情をしている者が大半だ。
その数、約百数十人。
「静かに」
ドミエルの落ち着いた、しかしよく通る声に隊員達は言葉通り、即座に静かになった。
「これより作戦の確認を行うと同時に、サマエル様からの言葉もある。聞き逃さないように」
サマエルは隊員たちの前に歩み出る。
「まず、私達の役割の確認だ。隠密行動による敵軍の陽動とかく乱。そして大魔王アンリ・マンユとその妻ジャヒーの救出及び保護だ」
ひとつ息を吐き、サマエルは言葉を続ける。
「サバオトとサバオトが選出した隊員数名は大魔王アンリ・マンユの救出。同じようにエラタオルとエラタオルが選出した隊員数名は、女悪魔ジャヒーの救出。他全員はドミエルに続き、戦場を引っ掻き回せ」
了解、とばらばらに声が上がる。
「先日言ったが、アンリ・マンユとジャヒーはほぼ同時に救出しなければならない。サバオト、エラタオル、そして二人について行く隊員は常に連絡を取れるようにしておけ」
「了解です!」
「かしこまりましたわ」
サバオトとエラタオルも、隊員達と同じように返事をする。
「ドミエルと他の隊員は、とにかく戦場で暴れろ。だが無理して敵を倒す必要は無い。とにかく引っ掻き回せ」
「了解」
静かにドミエルが返事をする。
「そして、次が最重要事項だ。何がなんでも、この命令だけは厳守しろ」
サマエルは息を吸い、声を張った。
「生き残れ。死ねば全て終わりだ。疲労や怪我で苦しくなったら、すぐに後ろに下がれ。少しでも勝てないと感じたら逃げろ。天界軍を利用してでもだ。私は敵前逃亡を恥と責めるつもりは無い。死ぬ事が最大の命令違反だ」
サマエルは隊員達を見たあと、ドミエル、サバオト、エラタオルの三人を見る。
「お前達もだ。危なくなったらすぐに退け。先程の任務を放棄してもだ。ダエーワの奴らには悪いが、私にとってはこっちの方が重要だからな」
三人は同時に頷く。
「何と言われようと関係ない。卑怯、邪道、そんなものは、私達にとっては日常茶飯事だろう? 正義を謳う必要も、悪を唱えることも無い。私のためと特攻するな、やったやつは次の給料を半分にする。とにかく生き残れ」
三人と隊員達が了承の声を上げる。タイミングはバラバラだし、不安を拭いきれていない者も多い。それを見て、サマエルは頷いた。
(これでいい。天使のような完璧な統率も、悪魔のような弱肉強食も、うちには必要ない)
「以上をもって、話を終わりとする。準備が出来次第、隊長格と共に地獄へと向かえ。お前たちの命令達成を願うぞ」
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