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「そういえばさ、何で死ぬの?」
「それ、聞いてどうするんですか」
「うーん、別にどうもしないけど。…単純に興味があって、駄目?」
「いろいろと疲れちゃったんですよね。それで、天気がよくて…死ぬなら今日かなって」
「ふうん」
さっきからこの人は呑気だ。彼と話していると毒気が抜かれていくような気になる。
話すつもりのなかった命を絶つ理由も何故か見知らぬ相手に話してしまっている。
話したところで命を絶つのを阻む要因にはなり得ないためだろうか。
私の言葉にも適当な返事をする彼は、毎日を何となく惰性で生きていそうだ。
だからきっと悩みなんて無いのだろうななんて考えていると、彼がまた話しかけてきた。
「ねぇ、多分ここから飛んでも死ねないと思うんだけど」
は?急に何を言ってるの?
まさか止めるつもり?
「ほら下見て。木がいくつも立ってるでしょ。多分そこに引っかかって良くて骨折。悪くても脊椎損傷ってところかな」
彼の言う通りに下を覗いてみる。確かに街路樹が並んでいて、落ちたとしてもあの木がクッションになるかもしれない。
この暑い時期だから生い茂った葉がよく見える。
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