ー side 亮介 ー

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「こんなに早く帰れるなんて思ってなかったから、帰ったら晩ご飯を調達しに行かなきゃですよ」  おどけるように笑い、何を食べようかななんて、まるで友達みたいに喋ってくれた。  本当に好感度が高い。人懐こいし、親しみやすい。しかも美形。しかも優しい(だってココアくれたし)。なんなんだ、このモテる要素しか持ち合わせていないような人間は。こんな人、まじでいるんだな。 「あの冬もかなり遅かったですけど、あれはどこかで飲んでた帰りなんですか? それとも……」 「あれ、仕事帰りですよ!」 「うそ! 〇時とっくに過ぎてましたよね!?」 「過ぎてましたねぇ」  一体何の仕事してるんだよ! 営業さんじゃないのか? 「けど、確かあの日は電車のダイヤがかなり乱れてて、長時間車内に閉じ込められてましたけど」  あ、なるほど。そういうことか。 「あの日も帰ってから小腹が空いて、あの時間から食べるもの探してましたけど」 「あはは! 何か見つかりました?」 「ポテチを」  OLだったら有り得ないヤツじゃん! おもしれぇ! 「食ったんすか? あの時間から」 「もちろん。ココアと一緒に」 「あはは! 甘いのとしょっぱいので、無限ローテ出来るやつですね!」 「そうです! それです!」  すげー話が合う! ほぼ初対面なのに会話が続く。全然途切れそうにない。こんなことってあるか? 楽しい。普通に楽しいじゃん! やっぱりこの場で終わらすのは勿体ない! 俺、この人と気が合うと思う! どうにか繋ぎとめる方法ってあるだろうか。  そりゃ連絡先を聞き出せればそれに越したことはないけど、さすがに防備の薄い日下さんでもほぼ初対面の俺に連絡先など教えるわけはないだろう。それはまさか有り得ない。  俺も聞き辛いしな。  けどそれ以外の方法は思い浮かばない。大体、気が合うと思うのも今日だけかもしれないわけだし。お互い気を遣いながら喋ってればある程度盛り上がるものだろう……、きっと。それに、いつかは俺の正体もバレるだろう。先々のことを考えると面倒だ。  こんな言い方は可笑しいのかもしれないけど、諦めよう。今日出会えただけでも奇跡なんだから。だからあのアパートまでの距離で、俺はちゃんとこの人にお礼を伝えなきゃ。 「で。今日は何作るんですか?」  しかし、いきなり礼を言う流れでもない。礼は別れ際にきっちりしなくちゃな。今はそう、飯の話を。  俺は料理をする方だと自負している。日下さんもあんな風に言うものだからてっきり自炊するのかと思ったが、そんなことはなかった。 「何も作りませんよ。湯煎するかレンジで温めるか。その程度のものです」  自信満々に言われ思わず吹き出してしまう。なんなんだよ、まじで。ほんと笑わせてくれんじゃん。
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