ー side 亮介 ー

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 吹き出す俺に彼も楽しそうに笑った。 「男の一人暮らしなんてそんなもんですよ」  いや、少なくとも俺はちゃんと作るぜ。 「カレーは作りますか?」  試しに聞いてみると、彼はこれまた自信満々に首を振った。 「まさか。湯煎するインスタントカレーなら常備してますが」 「あはは! カレーくらい作りましょうよ!」 「男の一人暮らしですよ? あんまり量産すると四~五日カレーになっちゃいますから!」  いやいや、それ言い訳だろ! 口とんがらせて、今にも口笛吹きそうな顔してさ!  ヤバイ、この人本当に面白いぞ。 「いつもご飯、そんな感じなんですか?」 「いえ。いつもは仕事場で食べてます。まともなモノを」 「あはははっ! ぜひとも社食で健康管理してください」  俺は元々人見知りをしない方だけど、日下さんもそうなのかもしれない。会って数分なのに驚くほど話が弾む。 「え……っと……、お料理はされますか?」  一瞬言葉に詰まった日下さんは、俺の顔を真顔で一瞥し、目が合うと慌ててニッコリ微笑んだ。あ、そうか。俺まだ名乗ってないのか。名前呼ぼうとして言葉を詰まらせた感じが見受けられる。  けど、名乗るかどうか……迷うな。もしも、加藤亮介と名乗り、俺の正体がバレればいろいろ面倒くさい。すみませんと謝られるのもなんだか癪だし、日下さんも気まずいだろうし、もっとも、名乗っても尚気付いてもらえなかったらやっぱり普通に傷つく。  つまりはまぁ……ひっくるめて全部が面倒くさい。名乗らない方向で行こう。 「料理しますよ、俺。日下さんの好きな食べ物ってなんですか?」 「えっ、僕!? 僕の好きなもの?」  俺の返事が簡潔な上、逆に質問を返されたことに驚いたのか、日下さんは首を傾げて何が好きだろう、と眉を顰めた。 「うー……ん、なんでも食べますけど、この前食べたビーフシチューが忘れられないので、きっとビーフシチューが好きなのかも」  理由おかしくない!? この人まじめに言ってるのか!? その店のビーフシチューがうまいだけだろ、それ! 天然かよ!  どこまで面白い人なんだ? ヤバイ。興味が半端ないぞ。  この人ともっと話をしたい、本当にそう思う。 「ちなみにそのお店どこですか? 俺も食べてみたいです」 「え? さっき通り過ぎた喫茶店ですよ」 「えっ!?」  びっくりして振り返る。  駅前喫茶「アポロ」  決してお洒落な外観とは言い難い。一昔か二昔くらい前なら、お洒落な外観だったのかもしれないが、今や古臭い匂いしかしていない。  それが味と言えばそうかもしれないが、俺くらいの年代の男が一人で入店するとなると、かなり勇気がいる雰囲気だ。  幼い頃、親とよくここへ食べに来たが、メロンソーダにのっていたさくらんぼが邪魔だったなぁ~というイメージしかない。確かに食事もしたし、それこそ喫茶もしていたけど、そんなの遥か前過ぎて今この店がどうなっているかなんてまじで知るわけもない。  地元のお店こそ知らないものだ。灯台もと暗しってやつ。ここのビーフシチューそんなにうまいのか! まじで知らなかった! 「入ったことないんですか? 僕、結構お世話になってますよ、ここ」  変な話、他所から引っ越してきた人はそうなのかもしれない。だがしかし、生まれも育ちもココの俺からしてみれば、逆に盲点すぎる店だ。
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