ー side 亮介 ー

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 買い物袋の中から購入したゲームソフトをガサゴソと取り出して見せると、日下さんは一瞬で目を輝かせた。 「あ、それ! ちょ、僕も今めっちゃハマってます!」 「え! 本当ですか?」 「はい! すごく面白いですよ!」  その後はずーっとゲームの話をしていた。  シーフードドリアとビーフシチューが途中運ばれてきて、二人で「熱い! 火傷する!」なんて笑い合いながら、ハフハフとそれらを食した。  日下さんとの会話は小気味いいほど途切れることはなく、やり込んでいるゲームが同じだったことを皮切りに、趣味の話やバスケの話、日下さんのグルメガイドを聞いたりして、気付けば二時間ほどが経過していた。  外はすっかり暗くなり、雨も上がっている。  そろそろ別れなければいけない。けど、やっぱりそれが惜しいと思えた。ここで別れてしまえば、もう絶対に会うことはない。  だけど雨が上がってしまった手前、家まで送る必要もなくなっている。  日下さんは楽しそうに俺との会話を続けてくれているが、いつか雨が上がっていることに気付き、席を立つだろう。  寂しいけど仕方ない。社交辞令のように「また会えたらいいですね」なんて言って、この店の前でお別れだ。一旦駅前の駐輪場まで自転車を取りに戻って、俺は母親に洗剤と歯磨き粉を届けに帰らなければならない。  それにまぁ、明日はラジオの収録もあって朝が早い。あまり長々とここで寛いでいては、寝坊しかねないし。  ぼんやりそう考えていると、「失礼」と日下さんはトイレに席を立った。  これで確実に雨が上がっていることに気付くだろう。なかなか充実した時間を過ごせたと思う。今さっき出会った人とここまで会話が盛り上がり、二時間も話し込むことなどきっと今後有り得ない。  いいネタになりそうだと思うことにして、きっぱり諦めをつけた。 「加藤さん」  トイレから帰ってきた日下さんに名前を呼ばれ、はっと振り返る。「雨が上がりましたよ」と言われるのだと思った。  だけど、この人はこの数時間のうちに俺の予想を何度も裏切ってくれる。 「デザート食べませんか?」  にこにこと微笑み、彼は再び俺の前の席に腰を下ろす。まだ……俺との会話を続けようとしてくれるのか。  どこまでも……無防備な人。 「はい……、もちろん食べます!」  俺が思うに、この人は天然の人たらしじゃなかろうか。まぁ……うん、嫌いじゃないな。
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