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二人並んで川べりのアパートを目指す。
自分のことを話したがらない人だと分かってはいたが、ついポロッと「家はどの辺ですか?」と聞いてしまった。聞いた後でしまったと気付き、慌ててフォローの言葉を言いかけたが、彼は驚くことに実家の方角を指さした。
「川向こうなんですけど」
そう言って指さす方向は確かに僕の住むアパートの方角。
動物病院がどうの、中村種苗がどうのと説明してくれたが、最終的に銭湯が近い、という説明に大体の位置を把握出来た。
「一度だけ興味本位で行きました、その銭湯」
そう言うと加藤さんは「それ帰り湯冷めする距離じゃん!」と大笑いし、想像以上にツッコミ要素の高い返しに驚いた。大ボケをかましたつもりがなかっただけに若干動揺したが、加藤さんが楽しそうに笑ってくれているから、あの冬と同じようにどこかほっこりと心温まるような優しい気持ちになれた。
彼を家に招き入れ、ドリンクは何がいいか尋ねた。
「コーヒー、レモンティー、ココア、ゆず茶、マスカットティー、チャイ、ごぼう茶、えーと……ジンジャエール、牛乳、烏龍茶。あ、アルコールが良ければ……」
「ちょちょちょ、待って待って待って。なんですか! その喫茶店のようなドリンクの豊富さ!」
リビングのソファ横に鞄を下ろした加藤さんが驚いた声で待ったを掛けてくれたが……ん? まだまだあるよ?
「滅多に出さないんだけど、ハーブティー系が良かったですか? 今なら……」
「いや、いいです!」
全力で断られた。ハーブティーは好き嫌いあるしね。僕もそこまで多く買い揃えているわけではない。
「昆布茶とか緑茶がいいかな? 遠慮せずに言ってくださいね。あ、牛乳もありますから、カフェオレやミルクティーも作れますよ」
リビングに突っ立つ加藤さんは少し怪訝な顔でこちらを見ていて、それがなんだか可笑しくてもう少しからかってみることにした。
「あ、お好みがないですか?」
「……えっ!? いや、ちが……」
「フレーバー選べますよ? バニラ、シナモン、アーモンド、キャラメル。お酒も置いてるので、一杯いきますか?」
カクテル用のシロップと酒の瓶を取り出し並べて行くと、加藤さんは慌てた様子でこちらに駆けてくると、ここに来てようやく「アンタ何者だ」という目で僕を見た。
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