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「甘いものはお好きですか?」
キッチンを挟んで目の高さの変わらない彼に尋ねると、ぎこちなく頷いてくれた。
「でしたら、アイリッシュのシロップはいかがですか。僕の特製カフェオレでもご用意致しますよ」
いつぶりだろうか、この部屋に人を招き入れたのは。おもてなしの料理を作ることは出来ないけど、ドリンクくらいは少し手を加えよう。そう思ったのだが。
「いや、ココアで。……ココアを、ください」
そう言われ、加藤さんが僕らの再会を思っている以上に喜んでいることにようやく気付いた。
この人はやはり悪い人じゃない。例えそうだったとしても、彼は僕に危害を加えるつもりはないだろう。
そうでしょう? そうだよね、加藤さん。
「わかりました。では、ココアにしましょう。アーモンド風味にしますか? 美味しいですよ」
加藤さんは僕の提案ににこにこ微笑み、「ではそれで」と頷いた。
僕らの二度目のココアは、少し香ばしくて、風味のよいアイスココア。美味しい!と声をあげ、特製ココアの味にご満悦の加藤さんは、「日下カフェですね、ここ」とはしゃいで笑った。
とても可愛い。
そうやってはしゃぐと少年のようだけど、普通に会話しているだけなら、大人っぽくて男らしい。それを助長しているのは、やけに低い声かもしれない。
低いのに聞き取りやすくて、笑うと少しトーンが高くなる。すごく耳に心地いい。この声で子守唄とか歌われたらきっと一瞬で眠ってしまうかも。
そんなことを考え、思わずふふっと笑ってしまった。
笑った僕に加藤さんははしゃぎすぎたと勘違いしたのか少しばかり赤面して、そんな彼にまた笑いがこみ上げた。
「あはは! いいですよ。常にこれくらいのドリンクは常備してますから、いつでも飲みに来てください。ただ、料理は作れませんから、ご飯やお菓子はご持参くださいね」
加藤さんは恥ずかしそうに僕を見て「ほんとに来ますよ?」と冗談っぽい口調で言ったけど、「待ってますね」と僕は本気で返事を返した。
加藤さんもそれを察したのか、ふと真顔になって……そして柔らかく微笑んだ。
また来る、と約束なんかしてはくれなかったけど、その綺麗な微笑みを見て、僕はきっとこの先この笑顔をずっと見ていくんじゃないかって……不思議とそんな事を思った。
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