第1話 マムと呼ばれる女

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* 「早く行かなきゃ」 玄関で雑にスニーカーを脱ぎ捨てたフロラ。どすどすとリビングへと歩いていくと、中から声が聞こえる。 「お母さんまたどっか行くの?」  フロラがリビングに入ると、娘のローラがテーブルで本を開いて勉強をしていた。 「あ、あぁ…ちょっと用事があって…ってかアンタ学校は?」 「今日から試験だって言ったでしょ?午前で学校は終わりだよ」  フロラは“あちゃぁ”と顔を若干しかめる。 「夜遅くなるかもしれないから、8時になっても帰ってこなかったらこれで何か頼んでおいて」  フロラは財布から1000D(ドラール)紙幣2枚を取り出すとテーブルに置いた。 「えぇ〜?またぁ!?」  ローラからブーイングが上がるも、フロラはカバンを置いて玄関へ向かう。 「じゃ、行ってくるから」  家を出たフロラはあたりを見回し、姿勢を低くした上で気配を消して裏庭へと向かう。  裏庭の倉庫前に着くと、ゆっくりと、静かに倉庫の戸を引いて中に入った。  そして同じように静かに戸を閉める。  暗闇と工具や土の匂いの中、フロラは右手首の動脈部分に左手を当てて魔力を流し込む。  その瞬間彼女は空間に吸い込まれるように消えていった。
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