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父王への懇願
「父上、ですから私もそろそろマモルと娶せていただきたいと申しているのです。」
目の前の父上は落ち着きなく私を見ると、迷うように顔を顰めた。
「そうは言ってもだな、そもそもマモルは竜の番であって、王族の花婿ではないのだからして、其方の一存では何ともならない上、私がどうこう言える事でもないのじゃが…。」
私は父王を睨みつけて言った。
「ここだけの話、兄上たちはマモルを娶ったではないですか。私だけ除け者にするなど、到底納得できません。どちらかと言うと、私の方がずっとマモルとは親密だったのですから!」
そう父王に食い下がっていると、皇太子である兄上が扉を開けて入ってきた。
「何だ、デービス。またそれを言いに来たのか?マモルに関して言えば、竜であるロクシーとマモル、双方の意見が一致しないとどうしようもないのだぞ。実際、最近のロクシーは成熟が近いのか、昔のように私たちを見逃してくれる気配は無い。竜の番への情熱は絶対だ。
あとはマモルの考え次第だが。マモルは何と言っているんだ。」
私は変に余裕ぶっている皇太子を睨みつけて言った。
「兄上だって15年前に、相当のゴリ押しでマモルを娶ったでしょう。でしたら私だってそうします。…マモルはまだ私の事を幼い皇子としか見てくれません。私はもうこんなに成長したというのに。…私はどうしたら良いんでしょう。」
父王はゆっくりと立ち上がると言った。
「アスランの言う通りだ。どうするかは私たちが決めるのではなくて、マモルと竜が決める事ぞ。後はデービス次第。其方がマモルに、自分は立派な大人の男であると示したら良いのでは無いか?…後はアスランと話しなさい。私は行くぞ。」
そう言って逃げる父王の後ろ姿を恨めしい思いで見つめながら、私は呟いた。
「私が大人であると、どうやってマモルに気づかせれば良いのだ…。身体はもう数年前にとっくに追い越しているし、私が大人である事など、マモルだって気づいている。気づいているからこそ、最近は二人では会ってくださらない。」
そう言うと、アスランは少し沈んだ様子で言った。
「人間であるマモルは、私たちと同じ様な考え方をしない。幼い頃から自分の弟の様に可愛がっていたお前と、一線を超えるのは抵抗があるのだろう。お前を愛していれば尚更だ。…お前こそ、マモルの事はなぜ兄の様に考えられぬのだ?私たちより遥かに一緒の時を過ごして居るだろうに。」
私は今度の誕生日の40歳で王位を引き継ぐ予定の、すっかり貫禄を増したアスランに挑戦的な眼差しを送って言った。
「マモルの事を知ればこそでしょう?兄上達がマモルとの娶りを結婚の条件にして父王を脅したのは知っているんですよ?あの人はとても魅力的だ。溺れるほどにね。まして、私が小さい頃と何も変わっていない。あの瑞々しいままの姿は私を狂わせる。違いますか?」
私がそうやるせない気持ちを吐き出すと、兄上はため息をついて言った。
「…そうだな。彼は何も変わらない。私の若い情熱を今でもありありと思い出すほどに変わらない。竜のロクシーの成熟を待つためにユニコーンに不老不死の魔法を掛けられたのだから。
そして番った後は、ロクシーと共に千年の時をゆっくりと年を重ねて過ごすのだ。私達が生きている間、彼はあの出会った頃と変わらない姿のままなのだろうよ。」
私と兄上はこの部屋に飾られている大きな絵を黙って見つめた。この国の護り手でもある竜に寄り添う、長い黒髪を揺らして黒い瞳を輝かせて微笑む美しいマモルの姿絵の様に、きっと私たちが死ぬその時まで変わらぬのだろう。
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