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離婚から六年後
六年後。
子供が欲しかった康馬は、婚活アプリを使って出会った相手、みどりと結婚していた。三歳年下のみどりも子供を欲しがっていたが、子供は天からの授かり物。子供がいないまま時間が過ぎていた。
「また見ているの?」
「ああ。毎晩の習慣なんだ」
杏菜と離婚してから、康馬は杏名義のウェブ小説を読みはじめた。ドラマの原作になって有名になっても、昔から書いているライトノベルの小説を書き続けている。
毎日正午にアップされる小説を、その日の夜に読む。初めは離婚された腹いせに悪評でも書いてやろうと思った。しかし先が気になる展開になっていて、まんまとファンの一人になってしまっている。
「杏菜さんのお話、今度アニメ化するんだって」
「へえ。それはすごいな」
相槌を打ちつつ、今日の更新分を読み終えた。
「読み終わったなら電気を消すよ」
「ああ」
電気を消す瞬間、みどりはどこか不安げな顔をしていた。しかし康馬は、それを子供ができないことに対する心配だと思い、みどりに手を伸ばす。
「ごめんなさい。今日はそういう気分になれないの」
「そうか。それなら仕方ないな」
営みを拒絶されたことに、少なからず不満はある。しかし年齢的にも子供は諦めるしかないかと最近は思い始めていた。
(……あいつとの子供ができていれば今頃、俺も父親だったのに)
同い年の杏菜と結婚して二十年。夢のためにと応援してきたが、新婚当初に子供ができていたら今頃二十歳。成人した子供と一緒に酒を飲めていたかもしれない。
康馬の中で、杏菜への不満が燻る。しかしすでに離婚して六年。今さら昔のことを思い返しても意味はなかった。
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