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離婚
「慰謝料を払いますから、どうか離婚してください」
「……はぁ?」
結婚二十年目を迎えようとした年末。康馬は杏菜から離婚を言い渡された。
「は? 意味がわからん。突然どうした。昔からの夢が叶って、これから人生が楽しくなる時期だろ」
「私の人生に、あなたは必要ないわ」
「……お前、今の自分があるのは誰のおかげだと思っている? ちょっとした賞を受賞しても生活できないお前を、誰が養ったと思っているんだ」
「えぇ、わかっているわ。だから、慰謝料を払うんじゃない」
ドンと、康馬の目の前に、見たこともない札束の山が置かれた。思わず束の数を数え、それが十五と認識する。
「あなたに毎月もらっていた五万×二十年と、慰謝料よ」
その一言で二十年間の全てを否定されたような気がした。全ての額を精算することで、まるで康馬との生活なんて初めからなかったと言われたようなものだ。
「あなたが拒否をしても、私は考えを改めませんから」
頑なに態度を改めない杏菜は、杏という名前で作家をしている。大きな賞を受賞し、メディア展開もした。
「ふざけるなよ。二十年間、子供ができなくても我慢してたんだぞ? 俺の二十年はどうしてくれる」
「それは、申し訳ないと思っています。でもまだ四十。絶対にできないわけではないと思うの。少しでも可能性がある内に、離婚に承諾して」
半ば懇願のように言ってくる杏菜。二十年の共同生活で、頑固な一面もあると知っている。
康馬は渋々離婚を承諾した。
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