宝来 瑠璃子

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宝来 瑠璃子

 宝来瑠璃子【ほうらい るりこ】を乗せた車は朝靄がかかる道を進む。囀りさえ聞こえぬ静まった景色を眺める瑠璃子には、はっきり絶望が映っていた。  これより瑠璃子が向かう場所はかつて怪談話として聞いた『愛人屋敷』である。  今日日(きょうび)借金のかたに若い娘を売買する悪習が残っていようとは、瑠璃子のみならず一般人は信じない。しかし実際、瑠璃子は売られ、令嬢を辱めるのが好きな男共へ卸す為、相応の性教育を施されるのだ。  車内の重苦しい空気に運転手が後部座席の窓を開ける。すると、いわいていない髪がハラハラ舞う。  瑠璃子のプラチナブロンドは隔世遺伝。父方に異国出身者がいる。透き通る肌や青味がかった瞳もその影響を受けており、皮肉な事だが彼女の商品価値を高める要素となった。  瑠璃子は目を閉じる。瞼の裏には悲劇が張り付いたままで、あの日を再生する。
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