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奈落と堕落
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目を覚ますと瑠璃子は床に転がっていた。
どうやらあのまま眠ってしまったらしい。
「ーー鷹司さん? 出掛けたの?」
ベタつく身体を起こし、額に手をやる。うんざりする程、記憶はしっかり残っており溜め息が漏れた。脱ぎ捨てたワンピースを雑に纏うと浴室を探す事にする。鷹司との行為が水で流れるとは思わないが、とにかく全身を清めたい。
鷹司からの書き置きなどないか一応辺りを見回すも特段見当たらなかった。そもそも瑠璃子を遊び飽きた玩具みたく放って出掛けてしまえるのだから、気遣いをする訳ないか。
やはり室内に瑠璃子以外の気配はなく、各部屋を覗くも生活感すらない。厨房にいつも温かなスープが用意されていた実家とは違う。衣食住、瑠璃子が全て整えばならないのだ。
花嫁修業の一環とし裁縫や菓子作りを学んであるといえ、身の回りの世話は使用人に任せる前提の手慰み程度である。浴槽を洗ったり、湯を張るなどこれまで一度もしてこなかった。
まさに温室育ちのお姫様。瑠璃子はこの家を凡庸と思ったが、愛人を住まわすにしたら随分と広いし、贅沢な造りをしている。蝶よ花よと育てられた彼女はそれに気付けないだけ。
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