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瑠璃子の足取りは当然軽くはないものの、逃げ出す素振りが全くというほど無い。従順に扉をノックすると応答を待つ。
「はい」
少しして男の声がした。
「宝来瑠璃子です」
名乗り、扉が開く気配に一歩下がる。そして、出てきた相手に瑠璃子は形の良い眉を寄せた。
「逃げなかったみたいですね」
鷹司孝太郎【たかつかさ こうたろう】がいるとは想定外だ。瑠璃子は何かを掴かまないと立っていられない緊張と嫌悪が込み上げ、拳を作る。
鷹司は起き抜けなのか、垂れた前髪を掻き上げて鼻で笑う。
「逃げればどうなるか丁寧に説明して下さったのは鷹司さんですが?」
「あぁ、そうでしたね。入りなさい、今日からここが君の家です」
鷹司の他に人はいなそう。キョロキョロ、視線を泳がすだけで入室しない瑠璃子に命令が飛んでくる。
「さっさと入りなさい。僕は暇じゃないので」
なにも瑠璃子とて鷹司家の後継ぎが暇だと思ってはいないし、むしろ彼が自分の相手をするのか疑問なのだが。
急かされようと丁寧に靴を揃えてから鷹司の後を追う。
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