心配性ですのね(照)

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心配性ですのね(照)

 私はすぐに返事ができなかった。それを察し彼は、うつむきいじけた声を出す。 「やはり私では……」 「いえ。私でよろしければ、いつまでもあなたのおそばに」  その返事に、どうにも安堵したような顔をして。 「ですが」  すっと真顔になった。 「先ほど申しましたように、私は看護の道をゆく自分でなくては、自分らしくいられないのです。ご理解いただきたいと願うのは貴族の妻として、自分本位が過ぎるでしょうか」 「いいや。君の思うように生きてくれ。そんな君を誇りに思う。ただ、その……」 「?」 「看護婦として働く君の、魅力に憑りつかれる若者がいたらと思うと……」 「!」 「まるで、あの頃の、私のように……」  そんな心配をされるだなんて。経験がないから妙な心地がする。すこぶる気恥ずかしいものだ。 「そういうことをおっしゃらないでください。私は看護婦であるにも関わらず、患者のあなたに特別な思いを抱いてしまった昔の自分が、今ですら恥ずかしくて。でもこの8年間、ただの一度もあのようなことは欠片もありませんでしたし、これからもありえません。あの時はまだ何も知らない子どもで……そして、生涯に一度きりの、運命でしたもの……」  言いながら彼の目をちらりと見たら、碧の瞳が潤んで輝いている。それが雫の零れ落ちた新芽のようで、あまりに美しくて、私が夢中で見つめるから彼は一時まごついたようだ。  そこで彼が急に私の手を取った。 「今夜、足の小指に触れさせてくれるね?」 「! ……はい」  その夜、私は知るのだった。  私の足の6本目の指は、母の教えのとおり、神からのギフトであったと。  このまま私は夢を見続ける。  足りないものを持つあなたと、余分なものを持つ私の、永遠(とわ)に綴る、真夏の夜の夢を。         ~FIN~
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