6本めの指

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 いつの間にか絶望していた。私の壮健や寿命に何ら関与しない、ちょっとしたたんこぶのようなもの。  足の小指なのだ、誰がそこに気付くわけでもない。しかし私はこのように通常の人とは違うせいで、きっと年頃になっても人として女性として、誰にも愛されることがないのではと、そう思いつめた。  それからは塞ぎ込む日々だった。社交場には欠席するようになる。靴が他のご令嬢とは違うと見つけられたら、もう生きてはいけないから。  代わりに、勉学に打ち込んだ。家で家庭教師と話をしている時間が最も落ち着く。  その家庭教師のひとりで、医師を志す女性と出会ったのは10の頃。学問のかたわら、興味深い話を多く聞けた。人を救いたい、そんな彼女の志に私は憧れを募らせる。  私もそうでありたい。人の役に立ちたい。人を慰めたい。心を癒したい。 「お父様、お母様。私、看護婦になると決めました」  ある日、私は両親にこう打ち明けた。貴族の身分を捨ててでも、と。当然父は大反対だ。しかし彼は私を猫可愛がりする立場、私の突拍子もない考えを叱りつけることはしない。  が、了承しなければそのうち諦めるだろうと高を括っていたようだ。  結局、時を経て、根負けしたのは両親の方であった。もちろん貴族の娘という肩書を捨てるのは許されず。だが、父の紹介する施設への実地訓練生としてなら、期間限定で認めるとのこと。  つまり、「そこで音を上げて現実を思い知れ」というのだろう。実際、私は甘やかされて育った娘。自分でもちろん分かっている。  私はまず人の役に立つことよりも、そこで職務に耐えられる、と証明することを目下の課題とした。  それでも未来への扉が大きく開いた気がしたのだ。
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