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片目
――片目を戦場で失ったのよ。
私はその病室に向かう途中、考えていた。片目を失い、いつしか完全に光を失う恐怖を思う。絶望の淵から逃れられずに? でも、命の灯は消えていない。
「ここは……」
私はその病室の前に立ち止まり、思い出した。
「あの時の……」
息を呑み、ノックをして入室した。
そこに踏み込むと、ベッドに座する患者がギロリと私を刺すように見る。
そう、あごを引いて横から頭を回すように眺めるその視線は、まさに獲物を探す虎。
ずいぶん美しい虎だこと。頭に巻いた包帯から髪の毛が逆立って妙に荒々しいのに、碧の瞳は少しも混じり気のない、まるで可憐な少年のよう。矛盾した、ふしぎな生きものだ。
「私は“リーン”と申します。あなたのお世話をしに……」
彼は何も返事をしなかった。いかにも苛立っている様子でいる。
「お水を持ってきましょうか? ……きゃぁっ!」
彼は私の持つ水瓶を突然振り払った。そして枕元のテーブルに置いてあった小物や花瓶も投げつける。彼がそうやって鬱憤を晴らすために、わざわざ置いてあるかのようだった。
ただ、私に向けてそういうことをするでもない。これは虎の威嚇行動だ。
私は跳びかかるように、彼の頭を胸に抱きしめた。ただの威嚇だとは分かっていても、やっぱりこういうのは恐ろしいから、胸が張り裂けそうになってしまっているけれど。熱がその目に届くように。
私はただ祈った。
「一秒でも長く、あなたの瞳に光の届からんことを」
「……あ……」
「ん?」
「頭が痛い……目の奥が痛い……」
「医師を呼びましょうか!?」
「……水が欲しい」
「……お持ちします」
私は急いで井戸へ向かった。
「会話がなんだか噛み合わない? 本当に虎の化身なのかしら?」
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