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些細なケンカだった。ちょっとした言い合いだったのに、お互いあとに引けなくなって、拓真はうちから出ていった。部屋に一人残された私は怒りがだんだん虚しさに変わっていき、静まり返った部屋は埋めようのない寂寥感でいっぱいになる。
どうしてこんなことになったんだろう。私には拓真しかいなくて、拓真がそばにいてくれればそれだけでいいのに。
拓真が置いていったクマのキーホルダーは、私が作った編みぐるみ。編み物好きだし、お揃いにしたくて頑張って作ったの。それなのに、拓真は怒りに任せて目の前で引きちぎり、怒鳴りながらそれを私に投げつけたのだ。
握りしめた手は小刻みに震えた。床に落ちたクマは、頭のてっぺんに穴が空いて、綿が少し飛び出していた。見下ろす私は悲しみでいっぱいだった。
「拓真に会いたい
ちゃんと話がしたい」
LINEは既読スルー。何度も送ったよ。それでも既読スルー。まだ怒ってるのかな。スマホにかけてみる。コール音が延々と繰り返されて電話にも出てくれない。
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