ツナマヨ

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◇ 「お前また鮭かよ!」  五〇〇ミリのコーラとポテチの袋を手に、ハルは言う。  対して俺は、二つおにぎりを手にしていた。両方鮭だ。  ネタ作りをするためにハルの家に向かう途中で、近所のコンビニに寄るのはもはや通例となっていた。ハルがポテチとコーラといういっそ様式美のような組み合わせを買うことも、俺が鮭おにぎりを二つ買うことも。 「悪いか。お前もそればっかやんけ」 「これはいいだろこれは! あと期間限定とかあったらそっち買ってるし」  そんなドヤ顔で言うことではない。  隣に立ったハルが、棚に並ぶラインナップを順に見ていく。これも通例だ。 「たまには違うやつ食べてみろよ。ツナマヨとかツナマヨとか、あとツナマヨとか」 「全部同じやろ。百パーお前の好みやんけ」  コンソメポテチにコーラにツナマヨ。ハルは大抵子供舌だ。コーヒーを飲む奴の意味がわからないと、コーヒーを飲む俺の前で言うくらいには子供っぽい。 「マジでうまいんだって。ていうか鮭って渋くないか?」 「ど定番やろ」  ツナマヨを押し付けようとしてくるハルから逃れてレジへと向かう。遅れて後ろに並んだハルは、レジ前に置いてある一口チョコを手に取った。 「いやだって、こんな堂々と置いてあったら気になるだろ」  何も言ってないのに言い訳じみたことを言ってくるのもいつものことだ。  ハルの言い分はいつもめちゃくちゃで、子供っぽい。けれど何の翳りもなくそんなことを言えるハルのことが、少しだけ羨ましかった。 ◇  いつのまにか少し眠っていたらしい。  部屋の狭さに驚いて、そういえばネカフェにいたのだと遅れて気が付いた。  夜行バスではろくに眠れなかったので、つい眠ってしまったのだろう。  起き上がってスマホを見る。まだここに来て三十分ほどしか経っていなかった。  落ち着いた場所で眠ったおかげが、妙に頭が冴えている。そうすると不思議なことに空腹も思いだした。  部屋の橋に置いていたリュックに手を伸ばし、中からおにぎりを取り出す。  ここに来るまでに立ち寄ったコンビニで買ったものだ。無理やり押し込んだせいで、少し平べったくなっている。  真ん中のビニールを剥がし左右に開いたところで、引っ張られた海苔が千切れて床に落ちた。  指先でつまんでゴミ箱に捨ててから、おにぎりをにかぶりついた。パリっと音を立てて千切れた海苔と、固まった米粒に歯が食い込む。半月型に割れた米の中から、薄茶色の具材が覗いていた。   「味濃っ……」  初めて食べたツナマヨおにぎりは、味が濃くてねっとりしていて、あまり美味しいと思えなかった。
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