たこ焼き

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 俺が買ったチケットの公演は午後三時二十分からのものだ。駄目元で劇場窓口に行くと、立ち見席と一番後ろの席なら空いていると言われて購入したもの。開場の三時に入るにしても、まだ一時間ちょっとある。  小腹が空いていたのでどこか店に入りたかったが、さすが夏休みなだけあってどこも人は多い。左右を店に挟まれた道は、人の多さも相まって狭く感じる。  軽く調べてみると、すぐ近くに有名なたこ焼き屋を見つけた。ハルと目星をつけていた店だ。一石ホールのほぼ隣に立ち構えられた『たこ焼き屋 あさな』には、予想通り行列ができている。しかしさすがに回転率が早く、どんどん進んでいた。  少し迷ってから最後尾へと並ぶ。すぐに後ろに人が並び、そしてまたすぐに列は進んでいった。  自分の順番はすぐにきた。三人体制でたこ焼きをひっくり返している女性が、喧騒にも負けないよく通った声で注文を訊ねる。 「えっと、六個入り。ソースで」 「六個ですね! 味は受け取り口で注文お願いします!」  せかせかと言われた。なんだ、そういうことなら先に言えと思ったが、よく見ると貼り紙に書かれていた。メニューしか目に入ってなかったようだ。  やはりあっという間に順番がきて、六百円を払いたこ焼きを受け取る。 「マヨネーズ青のりかつお節を乗せても大丈夫ですか?」  本当に息継ぎもなく言われて、一瞬何を言われたのかわからないくらいだった。  噛み砕けないまま頷くと、即座に「すぐに食べますか?」と聞かれる。やはり上手く飲み込めないまま頷けば、六つの球にツヤツヤのソースが刷毛で塗られていった。  ビームのように発射するマヨネーズがかけられたかと思えば、次の瞬間には青のりとたっぷりのかつお節が振りかけられている。  魔法のような早さで仕上がったたこ焼きは、ピンクの薄い紙と輪ゴムで軽くまとめられた。両手で受け取ると、手のひらに我慢できる程度の熱がじわりと伝わる。受け取り口には一味の袋が置いていたので、それも取っていった。  急かされるまま横に出る。ところでこれはこの場で立ち食いするということなんだろうか。  悩んでいると、俺の後ろに並んでいたカップルが、店横の小さな路地に入っていった。ついていくと、店内へ続く入り口が見つかる。  狭い店内はすでに満席だったが、どうやら二階があるらしい。上にあがるとそちらも人は多かったが、まだ空きはあった。奥の壁際に備えられたカウンターのような一人席に座る。  ソースが染みた紙を剥がすと、たっぷりのかつお節がふわふわ踊っていた。一味を振ると色鮮やかさが増して、なかなかに美味そうだ。  竹串でカリカリの表面を割る。そのまま食べると火傷必須なので、一度割り開いてから食べるのがコツだ。小籠包と同じ理屈である。  立ち上る湯気を数秒見届けてから、竹串二本で挟んで口に運ぶ。かなり熱かったが、舌で転がせば我慢できる熱さだ。 「あっつ!」  どこからともなくそんな声が聞こえてきた。窓際の二人席に同い年くらいの男子が座っていた。  涙目で水を飲むのは丸ごと食べた方だろう。それを見た向かい側に座る男子は「だから言うたやろ」とゲラゲラ笑っている。  ハルも同じことをしそうだと、そう思った。
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