軍事力の増強は戦争を招く?

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軍事力の増強は戦争を招く?

江戸時代、日本は鎖国していた。幕府が各藩の力を削ぐことにより、国内での戦はなくなり、鎖国により他国から攻め込まれることもなく300年の太平の世が保たれた。 こんな風に、学校の歴史の授業で習ったのではないか?(かなり昔なので記憶は曖昧だが) けれど、不思議に思いませんか?南蛮人と呼んで異国人を追い出し『鎖国』と言って国を閉じ(外交・通商を拒否)たからといって、なぜそれができたのか?なぜ幕末に黒船が来た時に追い払えなかったのに、300年前はできたのか。 私も最近知ったのだが、こういう“なぜ”を教えないのが学校の歴史授業の狡い(?)処だと思う。 例えば、鉄砲の伝来。1543年にポルトガル人が漂着し鉄砲が伝えられたと教えられる。まるで、たまたま(偶然)種子島に辿り着いたポルトガル人が鉄砲を持っていて、日本に伝わったような風に教わる。 しかし、歴史に偶然はなくて、この鉄砲伝来にもちゃんと裏がある。 その頃の世界の二大勢力、ポルトガルとスペインは、勝手に地球儀上に線を引いて「ここからここまではそっちで、ここからは俺の物ね」と決めて植民地を増やしていたのだ。そのちょうどボーダーラインにあったのが日本で、どちらが取るかしのぎを削っていた。 それが、フランシスコ・ザビエルの日本での布教だったりする。イエズス会を始めとするローマ・カトリック教会による全世界への布教活動は、単なるキリスト教の伝道活動ではない。福音伝道を旗印に掲げ、先住民の宗教を偶像崇拝、魔術、迷信、悪魔崇拝と決めつけ、キリスト教に改宗させることにより、征服者による支配と植民地化をやり易く、より徹底するための手段だったのだ。 南米、アフリカ、アジア等の植民地化は、西欧中心の「選民」思想によって支配地の住民に福音と繁栄をもたらす“救済”であるとのイデオロギー的装いをまとって、被征服者の宗教、文明を否定し、抑圧・疎外するものだった。そして、現在もなおその思想は隠然と続いている。 2022年7月 ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇はカナダ訪問の際「多数のキリスト教徒が先住民に対して行った過ちについて再び許しを請いたい」と語り、かつての「植民地主義精神」を否定、「今日においても、現実にそぐわず、人々の自然な価値観を抑圧し、伝統や歴史、宗教的な結び付きから人々を引き離そうとするイデオロギーの植民地化がさまざまな形で存在する」と指摘した。 ところで、鉄砲伝来の話に戻る。このポルトガル人による鉄砲伝来は、明時代の倭寇の頭目王直の手引きによると言われている。当時日本は戦国時代だったので、鉄砲という新しい武器を知らせれば、器用な日本人はすぐそれを作れるようになり、“火薬”が売れると踏んだらしい。 王直のもくろみ通り、日本人は僅か八ヶ月後には国産の鉄砲を作り上げた。 そして、ガンガン鉄砲を作って日本の戦を変え、戦国時代を終わらせた。 戦国時代が終わった時、世界中の鉄砲の約半数が日本にあったという説がある。つまり、日本は鉄砲の国産化に成功したお陰で『軍事大国』になっていたのだ。 おまけに、ヨーロッパから日本は遠い。途中の植民地(インドネシアやフィリピンなど)を経由して補給したとしても、戦争して征服できたとしてもペイしないとスペインもポルトガルも考えたのだろう。だから、温和しく“追い出されたのだ”。因みに、領土的野心のないプロテスタントの国(オランダ・イギリス等)とは、布教活動をしない前提で江戸時代を通じて通商している。もちろん中国大陸の国とも。 そして、300年の太平の後、日本はすっかり『軍事弱国』に成り下がり、黒船が来ただけで大騒ぎになったわけだ。ただ、幕府もそう愚かではなく、ちゃんと外国の情勢も摑んではいたらしく、それなりの対策もしていたらしいが、いかんせん、薩摩・長州など開明的な藩以外はまだ太平の眠りから覚めていなかったようだ。なにせ、“長州征伐”の折り、“火縄銃”を出してきた藩も結構あったそうだ… 黒船来航(1853年)から戊辰戦争(1868年)までを仮に“幕末”とする。 この間日本は、倒幕尊皇攘夷派と佐幕派の数々の衝突があり、まさに戦国時代さながらの内戦状態。軍事力増強合戦だ。で、その“鉄砲”はどこから来たか。 1865年4月にアメリカ南北戦争が終結している。つまり、アメリカに“中古の鉄砲”が山ほどあったわけだ。これを日本に売らないはずはない。薩摩・長州では早い段階から、より新式で命中率・射程に優れたミニエー銃やスナイドル銃への更新を進めていたが、幕府軍や東北各地の藩ではより安価な“中古の鉄砲”(ゲベール銃)を購入したようだ。 戦争は破壊するのみで何も産まない。兵器などない方が良いに決まっている。しかし、争いがある限り、兵器はより強力な物が造られる。 兵器が争いを産むのではない。 人の心を変えない限り、争いは亡くならない。
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