25人が本棚に入れています
本棚に追加
24年前
少し気取った若草色のスーツを着た母の隣で、白シャツに黒ズボン、慣れない衣装を着せられた僕は、居心地の悪い思いでパイプ椅子に腰かけていた。まだ6歳の子どもには大きく、深く座れば足を投げ出す格好になる。それは行儀が悪いからと、座面前方にちょこんと腰かけることになり、床に着かないつま先が宙に浮いた。背中を丸めて足をブラブラしていると、トンと隣から膝頭を叩かれた。慌てて背筋を伸ばして、顔を上げる。人垣の向こうの壇上では、父方の叔父さんがカメラのフラッシュを浴びていた。彼の背後には、立派な額縁に納まった絵画が立て掛けられていて、画面には少年の姿が見て取れた。
「心星賞受賞、おめでとう!」
「この村に、このような才能が眠っていたとは、素晴らしい!」
「箕尾先生に教わる子ども達は幸せですなぁ!」
「いやぁ、名誉ですよ!」
村の偉い大人達が口々に賛辞を贈る。その度にワッと歓声と拍手が起こる。
「お母さん、“しんぼししょう”って、なに?」
「伯人叔父さんの描いた絵が、凄い賞をもらったのよ」
「ふぅん」
まだクレヨンでのお絵かきしか知らない僕は、母の言葉の意味が半分も分からなかったが、その場の雰囲気で頷いた。父の弟、本家の伯人叔父さんが村の皆から褒められていて、とても喜んでいることだけは理解した。
この日、角張中学校の体育館に集まった村人の中で、叔父さんは確かに主役だった。賞賛の輪の中で、キラキラと輝いて見えた叔父さん。それが半年も経たずに心身に不調を来たし、その半年後、勤めていた中学校を退職することになるとは、この時は誰も想像だにしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!