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 それから、荷物を置いて再び集合した純一達は、施設の裏にある山へ登る事になった。クラスごとに出発し、途中にある公園で一休みして、また違うルートで施設へ戻る予定だ。 「ねぇ純一」 「ん?」  湊と純一はクラスの最後尾で話しながら歩いていた。舗装されてない道なので、大きな石を避けながら進んでいく。 「純一は司の事どう思ってるの?」 「どうって……友達だと思ってるよ?」  いつもニコニコしている湊だが、何だろう、いつもと違う感じがする。 「恋愛対象として意識したことはないの?」 「ある訳ないだろ、俺は女の子が好きだ」 「そう言えば、入学してからずっと言ってたね」  湊は笑う。 「じゃ、今夜女子部屋の方に行ってみる?」 「えっ?」  純一はチャンスだ、と思った。これで女の子と仲良くなれれば、彼女をつくるきっかけになるかもしれない。  でも待てよ、と純一は思う。 「湊も一緒なら、女の子は湊しか相手にしないから却下だ」  いくら女子と話せても、湊にしか興味の無い子では、彼女になってくれる確率は低そうだ。 「うーん、それもそうだね」  否定しない湊。モテるのが普通になってしまっている彼にとっては、純一の気持ちはきっと分からない。 「あ、ムカつく発言だな……っと、うわっ」 「おっと」  純一は石に足を取られ、転びそうになる。しかし湊がとっさに脇を支えてくれて、事なきを得た。 「大丈夫?」  湊の声が耳のそばでする。純一は思わず肩を竦めた。 「……どうしたの?」 「……っ、なんでもない、大丈夫!」  純一は体勢を整えると、再び歩き出す。湊はクスクスと笑っていた。 「感じちゃった?」 「くすぐったかっただけだっ」  純一は足を早めるが、湊は余裕で付いてくる。  足が長くてムカつくなぁ、と思っているとやがて広場に出た。 「あー、見晴らしいいね、やっぱり」  湊が麓を一望できる所まで歩いていく。不思議な事に、湊が純一と少し離れただけで、女の子が寄ってくるのだ。 「綺麗だよねー! 開放感あるー」  寄ってきた女子達は、それとなく湊に話しかける。 「そうだね。純一、こっちに来なよ」 「おう」  そして純一が湊に近付くと、女子達はそれとなく離れていくのだ。 「なんか俺、女の子達に避けられてる?」 「避けられてるというか……」  湊はこっそりあっちを見て、と指さした。女子達はニコニコ微笑ましい顔でこちらを見ており、中には手を合わせている子までいる。「萌えをありがとう、神様」と言う声が聞こえて、何なんだ、と湊を再び見る。 「女の子の妄想力は逞しいね。俺達が揃ってると、一部の女の子が喜ぶみたい」  だからサービス、とまた湊は純一の肩を抱き寄せる。すると女子達から悲鳴が上がった。 「やめろよ、また司に見られたら……」  純一はすぐに離れると、今度は素直に解放してくれた。そこに見えた湊の顔は、さっき見た、笑顔だけれどもいつもと違う顔だ。 「司に見られたら嫌なの? 純一が嫌なんじゃなくて?」  そう言われて、純一は自分が嫌だとは言いきれなくて黙った。誰にも触られたくない潔癖症ならともかく、肩を組まれたぐらいで減るものでもないし、気にしていない。 「俺自身は全然……司に見られると厄介だからってだけで……」  気持ちをそのまま伝えると、湊はなるほどね、と納得したように頷いた。 「司が絡んでくるのは嫌なんだ?」 「嫌というか……あいつは湊とはニュアンスが違うだろ? だから……」  担任が出発の声を掛けている。純一と湊は歩き出した。 「俺も、司と同じ意味で純一が好きだよ」 「え?」  純一は湊を見た。優しい笑みを浮かべた彼は、きっと初めて会った女子でも、好きになってしまうほどかっこいい。 (待て待て待て、俺もしかして湊に告白されてる?)  顔が熱くなる。いや待てこの反応はおかしいぞ、と純一は慌てた。  司の時は照れることなく断ってたはずだ、なのに何故、今はこんなにも顔が熱いのだろう? (湊がイケメンだからだ。うん。司もブサイクな訳じゃないけど) 「あれ? 司の時と反応が違うって事は、俺はチャンスありなのかな?」  湊が嬉しそうに顔を覗き込んでくる。純一は視線を逸らした。 「チャンスなんてねーよ。俺女の子が好きだって言ってるだろ? ってか、何で司が告ってきた時のこと、知ってるんだよ」  顔がまだ熱くて湊が見れない。しかも、ものすごく重大な事を言われている気がする。湊の口ぶりだと、司の告白を見ていたみたいじゃないか。 「うん、俺あの時近くにいたから。あんな人前で堂々とすごいなーって」  純一は恥ずかしくて逃げたくなった。  湊の話だと、純一と司が友達として付き合い始めたのを聞いて、次の日どうなったか気になって声を掛けたらしい。 「純一は可愛い顔してるし、初めはからかってたけど反応も可愛いし、どんどん可愛いっていう気持ちが膨らんでくんだよね」 「……可愛いって言われるのは嫌いだ」  純一は困った。どうしよう、顔が熱いのが全然引かないし、すごく口説かれている気がする。 「うん。可愛い顔してそういう事言うから好き」  湊は笑った。顔は見ていないけど、きっととても満足気な顔をしているに違いない。 「司も湊も、何で俺なんだよ……俺は彼女が欲しいのに」  熱い顔を手で仰ぐと、施設に着く。  入学して一ヶ月も経たないうちに、男二人から告白されるとは。俺の高校デビューはどこ行った? 純一は大きなため息をついた。
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