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 その後、純一も湊も、軽く見たい店を回って、今日のメインの本屋に入る。  司は迷うことなく新刊コーナーへ行き、手に取って見ている。 「今どきインターネットで買えるし、電子書籍もあるんだからそっちで買わないの?」  重くない、かさばらないのがメリットだが、司がわざわざ本屋に来る理由は何故なのか、純一は聞いてみた。 「こうやって実際中身を見て買いたい。やはり相性もあるから」  相性? 本との相性って何だ? と純一は首をかしげる。 「読みやすい、読みにくいがあるって事じゃないかな」  湊がスーツケースを持ってあげる。さり気ない優しさでサポートするのはさすがだ、と純一は思う。  そして司はというと、すでにカゴの中は十数冊入っていて、この調子で本を買うのか、と少し不安になった。 「……こんなものか」  司はそう言って、レジへ向かう。買い物はこれで終わりかと思いきや、カゴを店員さんに預け、新しいカゴを持って戻ってきた。 「え、まだ買うの?」 「何を言っている。各ジャンル、全て見るぞ」  そう言って司はビジネス書のコーナーへ向かった。自己啓発本などの新刊や、資格の本まで手に取っている。 「何か……司が頭良い理由、少し分かった気がする」  湊が司を眺めながら純一に話した。 「勉強のためじゃないんだね。純粋に読み物として本が好きなんだろうなぁ」  そう言われてみれば、と純一も司を眺めた。  いつも読めない表情をしている司だが、今は心なしか楽しそうだ。  本といえば雑誌のグラビアを見て、どの子が可愛いだとか言ってる純一とは、次元が違う。 「そういえば、雑誌を見れば司の着ている服の、ブランドが分かるかもしれない」  湊がそう言うと、司に断って二人で雑誌コーナーへ向かう。  男性向け雑誌の、表紙にスーツを着たモデルがいる物を取る。 「デザインからしてこんな感じなんだよねー……やっぱり。これだよ、セダール」  パラパラとページをめくった湊は、純一にそのページを見せてくれた。確かに司の服と、似たようなデザインのものが載っている。  その雑誌は三十代、四十代向けの雑誌で、何故司がそんな服を来ているのか、謎が深まるばかりだ。 「親父さんが着てるとか? って、シャツだけで二万とかするの!?」  純一が最も可能性が高そうな事を言うけれど、シャツの値段に驚く。  そして、今日の本の買い方といい、司はそれなりにお金持ちのボンボンなのでは、と思った。 「……もしかして司の家って金持ち?」  純一の言葉に対して、湊はうーん、と首をかしげた。 「性格はともかく、所作は綺麗だからねぇ」 「あ、それ軽く司をディスってる?」  純一は笑う。湊も自覚があるようだ、彼も笑った。 「おい、何を話している」  そして決まってこういうタイミングで、司が来るのだ。 「あ、司。君が着ている服、もしかしてセダール?」  湊が雑誌を見せると、司もそれを見る。家に似たような服があるから多分それだと、司は服のタグを探した。しかし、その服にはタグが見つからず、切ってしまったのかもしれない、とすぐに興味無さそうに話を終わらせた。 「待たせたな、買い物は終わった。どこかで休憩しよう、今日の礼に奢るから」  そう言って司は湊からスーツケースを受け取ってレジに向かって行く。  今日買った本は、一体どれくらいで全部読むのだろう? スーツケースを満タンにして満足気に戻ってきた司は、行くぞ、と本屋を出ていく。二人もそれに続いた。 「それにしても大量に買ったな。どれくらいで全部読むんだ?」  純一が司を見ると、彼は「さぁ……」と返すだけだった。 「時間とか気にした事がない。読むのが無くなれば売ったりして、そのお金でまた買いに行く」  司の本は、一応循環はさせているらしい。気に入ったのだけ残して、後は売るそうだ。 「でも、それじゃあ家は本だらけにならない?」 「そうだな」  司のコミュ力は相変わらずで、そこで会話が途絶えてしまう。  しかし純一はもう少し頑張ってみた。 「でもアレだな、文字を読んでも眠くならないのは才能だよな。俺なんか5秒で寝ちゃうもん」 「……」  司は何も言わず、ほんの僅かに口角を上げた。  純一はそれが笑ったのだと気付くのに、数秒かかる。 「え? 今笑った? 湊、見てたか?」 「え? 俺には分からなかったよ」 「俺だって笑う時もある」 「やっぱり笑ったんだ! ってか分かりにくっ」  そう言いながら、コーヒーショップに着く。純一は、少し頑張って話してみて良かったと思った。おかげで貴重な司の笑ったところが見れたからだ。  三人はそれぞれオーダーをし、司が宣言通り会計をして、飲み終わったところで解散する。  まだ帰るには早い時間だが、司が荷物を持って移動するのが大変そうなので、純一もまっすぐ家に帰った。
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