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 夜、司が持ってきた晩御飯を食べる。もちろん、司の手作りだ。 「はー……やっぱり司の料理、最高……」  食べ終わってひと息ついていると、ドアがノックされる。 「純一、お友達に先にお風呂入って貰ってー」  声の主は母親だ、純一は返事をする。 「ってことで、食べたばかりだけどどうする?」 「構わない。先にいただく」  そう言って、司は準備をして風呂場へ向かった。  純一は深呼吸する。  ずっと同じ姿勢だったからか、身体が固まって痛い。ストレッチをして身体をほぐしていると、司のやりかけの課題が目に入る。 (司って、すごく綺麗な字を書くんだな) 「……」  純一はずるい事を考えた。この課題を今のうちに写してしまおうか。  少し考えて、ちょっとだけ、と司の課題を見せてもらう。  でも、すぐに良心の呵責に苛まれ、止めた。きちんと司に教えてもらってやろう、と考え直す。  しばらくして、司がお風呂から出てきた。 「おかえりー」 「……ああ」  司が元の定位置に座る。司は寝る時の服も、上下黒だった。 (……ん?)  ふわりと甘い香りが漂ってくる。何の匂いだろう、と純一は探すと、どうやら司から来ているようだ。 「なぁ司、シャンプー何使ったの?」 「風呂場にあったものを使わせてもらったが?」  あっそう、と純一は首をかしげる。いつものシャンプーを、他人が使うだけでこんなにいい匂いがするのだろうか。 「じゃ、俺も入ってくるね」 「ああ」  司は早速本を取り出し、読もうとしていた。 ◇◇ 「上がったぞー」  純一はサッと入浴を済ませると、部屋に戻る。司はやっぱり本を読んでいて、純一の姿を認めると本をしまった。 「じゃあ、続きをやるか」 「おー」  純一は返事をすると、勉強を再開する。  しかし、夕食も入浴も済ませたので、どうしても眠たくなってきてしまう。 「なー司、そろそろ切り上げようよ」 「後半戦始まってすぐだぞ? もう止めるのか?」 「うん。後はまったりしようよ」 「……」  司は言いたいことがあったのだろうが、何も言わずに課題をしまった。  純一はローテーブルを片付けると、司の分の布団を敷く。  寝床の準備が終わると、純一はベッドに腰掛けた。司も隣に腰掛ける。 「ちょっと考えてたんだけど、付き合うって何だ?」 「どうした、急に」 「いや、こうやってお泊まりデート? してるけど、友達とするのとどう違うのかなって」  司は、確かに勉強会やるだけなら、友達同士と変わらないな、と言った。 「だからって、その……イチャイチャするのは、俺にとってはまだハードルが高いし。でも、司は俺とイチャイチャしたいのか?」 「……そうだな」  司のストレートな返答に、純一は照れてしまう。 「お、俺、付き合う事自体初めてだからさ、どうしてもその……そういうことに、免疫が無くて」 「分かっている」  司の声は優しかった。その声に少しホッとする。 「ってか、司は? 付き合った事あるのか?」 「いや、俺も純一が初めてだ」  純一は驚く。初めてなのにこの落ち着きよう、やはり性格によるものが大きいのだろうか。  純一は何だか余裕がある司にムカついて、俺だけテンパってるのかよ、と口を尖らせた。 「俺は感情が表に出ないだけだ」  司は目を伏せた。純一はそれを見て、意外にまつ毛が長いんだな、と思う。 「あ、感情が出ないのは自覚あるんだ」  純一は笑った。何考えてるか分からないって言われない? と聞くと、慣れた、と返ってくる。  司は、言葉にしようにも口下手なので、会話する事も諦めているそうだ。あれだけ本を読んでいるのに、不思議な奴だな、と純一は笑う。 「でも、行動は素直だよな。言葉や表情では何を考えているか分からないけど、行動で分かるっていう」  やっぱり面白い奴だ、と純一は笑っていると、司の手が頬に添えられ、触れるだけのキスをされる。 「……っ」  何でこの流れでキス? と純一は思わず手の甲で口を塞ぐと、目の前の司が真顔でこう言った。 「やっぱり、純一は可愛いな」  その声が、いつかと同じように背中をゾクゾクさせる。何だこれ、何が起きた、と慌てると、司は口を塞いだ純一の手をどかした。 「ちょ、ん……」  純一は抗議の声を上げようとしたが、司の唇に邪魔される。彼の唇は遠慮なく純一に吸い付き、音を立てては離れを繰り返す。  純一は離れようと司の胸を押した。しかしその腕も掴まれ、身体を引いた勢いで押し倒される。 「……っ」  チリリと唇が痺れる。その痺れは腰の辺りに連動しているのか、ゾワゾワと背中を何かが這うような感覚がする。それが何なのか、純一でも分かった。 (ヤバいヤバいヤバい)  このままでは流されてしまう。 「ま、って……待てって司っ」  純一がやっと声を上げると、司はやめてくれた。しかし、離れて見えた彼の表情に、純一はドキリとしてしまう。  純一を真っ直ぐ見る瞳には、うっすらと欲情の色が見え、少し息が上がっている。 「……嫌か?」  司の声が少し掠れて、それにぞわりとした。純一は何故これに反応するのか、と慌て、体勢を変えようと膝を曲げる。 「……っ」  純一の太ももに、司のものが当たった。それは普段の様子とは明らかに違っていて、ある程度の硬さを保っている。純一はすぐに膝を引っ込めた。 「……っ、いや、俺、心の準備がっ」 「………………そうか」  司は離れる。純一も改めて座ると、司も人並みな所もあるんだ、と失礼ながら思った。 「つ、司も人並に欲情したりするんだな」  雰囲気を誤魔化すためにそんな事を言うと、「俺を何だと思ってるんだ」と少し不服そうに言われた。  純一は素直に謝ると、頭をポンポンされる。 「嫌じゃなければ良かった。無理強いはしたくない」  司にそう言われて、純一はいたたまれなくなった。興味が無い訳ではないけれど、心の準備ができるまでには、もう少し時間が要りそうだ。  その後は純一オススメの漫画の話をして、司とそれを読んだりして過ごす。司はオススメの漫画を面白いと評価してくれ、今後は漫画も読んでみようと思う、と言っていた。
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