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次の日から、純一は哲朗のアドバイス通り、女子の理想に近付く事を止めた。
制服がダボついているのは仕方がないとして、髪型も身なりも、清潔感第一に考える。
すると、教室に着くなりクラスメイトの女子に挨拶された。
「おはよう川崎くん、今日は何だか雰囲気違うね」
「そう?」
「うん。良い感じ」
クラスメイトは笑顔で去っていく。
その他にも、数人に声を掛けられ、今までのスルーぶりは何だったんだと思う程だ。
(普通にした方が声掛けられるとか、何なんだよ)
内心少し悔しくもあったが、こちらの方が楽なのでホッとする。湊と司はどんな反応をするだろうか。
「おはよう純一」
「あ、おはよう湊」
噂をすればなんとやらだ。純一は期待に胸を膨らませた。
「何だかご機嫌だねぇ」
「そ、そうかなー」
(あれ? 意外と普通だ)
湊はいつも通り自分の机にカバンを置くと、純一の所に来る。そしていつも通り、他愛もない話を始めるのだ。
(もう少し反応があると思ったのに)
少し残念に思っていると、司がやってくる。彼は純一の姿を捉えると、真っ直ぐこちらにやって来た。
「おはよう」
「おはよー」
純一と湊は挨拶を返す。
すると司は湊をぐい、と押し退けた。
「いつもより近いぞ」
「え? そんな事無いでしょ」
良いから離れろ、とグイグイ押す司に、湊は抵抗した。
「ちょ、何で俺と純一の間に入ろうとしてるの」
「何かムカつくから」
「二人とも止めろって」
純一はそばでじゃれだす二人を宥める。 何かあると対抗し合う二人は、司は割と本気なようだが、湊はからかっているようにも見える。
「なんか俺、司に嫌われてるよねぇ」
「嫌ってはいない。ムカつくだけだ」
「それってどう違うの」
二人はそう言いながら、いつも通り純一の両隣りに来る。そしていつもより身体が近くて、というか両側からぎゅうぎゅう押されて、純一は息苦しさにそこから脱出する。
「二人とも止めろっ。俺を圧死させる気かっ」
「あはは、司ったらマジになっちゃってー。本当に純一の事好きなんだね」
こともあろうに純一を無視して湊は司をからかいだす。教室内で、クラスメイトもいるのにその話題はやめてほしい。
「好きで何が悪い。お前こそ、その思わせぶりな態度は止めろ」
「わー! わー! 二人ともストップ!」
はたから見たら、二人が純一を取り合っているように見える会話に、純一がストップをかける。
言う通り大人しくなった二人は、まだ静かな火花を散らしていた。
「もうチャイムが鳴るよ。違うクラスの司くん」
湊がニコニコしながら、「違うクラス」を強調して司を追いやろうとする。
対して司はいつもの無表情に戻ると、純一にだけ挨拶して去っていった。
純一はため息をつく。
「あのなぁ、司をからかうの止めろよ」
「だーって、普段無口無表情のくせに、純一が絡むと面白いんだもん」
ニコニコと話す湊は、悪気ゼロだ。そのしわ寄せが純一に来るので、是非とも止めて頂きたい。
それに、と湊は純一の耳元で囁く。
「司は純一の事、恋愛感情で好きなんでしょ?」
「……っ!」
純一は湊に囁かれた耳を押さえてバッと離れた。
顔が熱くなったのは湊の声のせいなのか、それとも話の内容のせいなのか。
「な、何でっ、気付いて……っ」
「やだなぁ、アレで隠し通せてると思ってたの?」
純一はさらに顔が熱くなる。その顔を見た湊は「可愛いなぁ」と更に笑みを深くした。
そうなると、純一が一生懸命隠そうとしていたのは、無駄だったって事になる。
「人が悪いなぁ、湊は」
「あはは」
湊は明るく笑う。そこでチャイムが鳴り、話はお開きになった。
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