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 ある日の休日、純一は哲朗とエリカと三人でショッピングモールに出掛けていた。  新生活が始まって、初めて三人の予定が合ったので、せっかくだから会おう、と言い出したのは哲朗だ。  何だかんだで純一の事を心配している彼は、マメに連絡をくれるのだ。  今はコーヒーショップで休憩しながら、エリカの学校生活の話を聞いている。  エリカの通う高校は、この辺りでは有名な女子校で、純一の少ない想像力では清楚な学生が、「ごきげんよう」なんて挨拶してるイメージしかない。  エリカは「全然そんなんじゃないよー」と手を振る。 「なんかね、持ち物のブランドで優劣つけたがるって言うか……毎年海外のどこに旅行に行くとか、そんな話ばっかり」  お嬢様学校とは聞こえがいいもので、どれだけお金を持っている人が周りにいるか、というのがステータスになるらしい。女子校が全部そうではないと思うけれど、エリカは馴染めず困っているようだ。 「でも、進学コースならそうでもないんだろ?」  哲朗がザッハトルテをつつきながら言う。彼は意外に甘党だ。  エリカは頷いた。 「うん。でも上位に入っていないといけないし……私のクラスがその、あまり真面目じゃない子ばかりだから」 「ああ……何頑張ってんの? って言われる訳か」  哲朗がザッハトルテを一口、エリカにあげる。それを自然にもらうエリカに、純一は仲が良いなぁと思う。 「でも、エリカちゃんは目的があってその高校に入学したんだよね? じゃあ無視でいいんじゃない?」 「うん……そう、だよね」  純一の言葉にエリカは肯定するものの、歯切れが悪い。哲朗は「そんな単純にはいかないんだよな」とエリカを宥めるように頭をポンポンと撫でた。  はっきりアドバイスをした純一に対して、エリカに共感を示す哲朗。この差が彼女ができるできないの境界線なのか、と純一は感心する。  その後コーヒーショップを後にした三人は、エリカがお手洗いに行くと言ったので、近くで待つことに。 「……で? 告白された彼とは上手くいってんのか?」  エリカの前で敢えて話題にしなかった話を、哲朗はズバリ聞いてくる。 「なんか、その聞き方だと付き合ってるみたいじゃん」 「付き合ってるだろ、友達として」  含みのある言い方をわざとするのは、面白がっているからだ。 「別に、特別何かが違う訳じゃないし。湊とワイワイやってるだけで」 「……ふーん」  哲朗はニヤニヤしながら、意味ありげに返事する。 「モテモテじゃないか」  ニヤニヤ笑いを止めない哲朗に対して、純一は口を尖らせた。  男にモテてもしょうがない、と純一はそっぽを向くと、その先に見覚えのある人物を見つけて、すぐに体ごと哲朗の方へ向く。  どうした? と哲朗は純一の後ろを覗くが、何が起きたのか分からない哲朗には「彼」が近づいて来ていることを知らない。  頼むから声を掛けてこないでくれ、と純一は心の中で願うが、それも虚しく純一のそばまで来てしまった。 「純一?」 「お、おう偶然だな」  戸惑う純一に哲朗は誰だ? と紹介を求める。 「え、えっと……」  まずい、これが例の告白してきた司だと知られてしまう、と純一はどうにか誤魔化す術を考えた。しかし、いい案が思い浮かばない。 「高校の友達か? 俺は純一の幼なじみで、小野田哲朗。そっちは?」  事もあろうに哲朗が自己紹介を始めたので、純一は焦る。 「俺は早稲田つ……」 「わー! 早稲田って名前なんだよ! なっ? 早稲田!」  純一は無理やり話を誤魔化して進める。司はいつも通り無表情だが、純一の慌てっぷりを見ても動じずに、よろしく、とだけ言った。  そこへエリカが戻ってくる。純一の友達と聞いて、彼女も自己紹介をした。 「エリカちゃんは哲朗の彼女な」 「よろしくね」 「……ところで、俺らこれからゲーセン行くんだけど、早稲田も来るか?」  哲朗が余計な提案をしてくるので、純一は内心「余計な事すんなよ!」と怒鳴る。 「いや! 早稲田は忙しいんじゃないかな? な!」  どうにかここは司と別れたい、と純一は口を出す。しかし願いも虚しく、司はその話に乗ったのだ。 「いや、俺も行く」 (来るんかーい……) 「でもでも! エリカちゃんは女の子だし、ちょっと嫌なんじゃない?」 「私は大丈夫だけど?」  屈託なく笑うエリカに、純一は肩を落とした。そして自然に歩き出した三人に、司は付いてくる。  こうなったら、司が司だとバレないように、俺が頑張るしかない、と純一は謎の気合いを入れた。
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