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さっきの仕返しのつもりで、私は心の中で舌を出す。
貴兄は咳払いをした。
「心外だね、琴理。十五年前に十二歳だった僕は、誰かさんの子守も結構していたんだけど」
あっ、私のことか。失礼しました!
貴兄は十二歳上の兄なのだ。と言っても、血は繋がっていない。
私の両親は結婚当初子供ができず、当時五歳だった貴兄を養子に引き取ったのだけど、その七年後に思いがけず私を授かった。
だから私は、両親と12歳年の離れた血の繋がらない兄に可愛がられて育つことになったのだ。
ところが両親は私が七歳、貴兄が十九歳の時に二人で交通事故に遭い、帰らぬ人となってしまった。
それからずっと、貴兄は周囲の助けを借りながらもなんとか一人で私を育てて来てくれたのだ。
大学生とか一番遊びたい時期に私がいて、本当はすごく迷惑だったんじゃないかと思うのに、貴兄はそういう気持ちを私に見せるようなことは一度もなかった。
それだけでも私は感謝している。
「琴理が赤ちゃんの頃を思い出すなぁ…。可愛かったよなぁ、あの頃。」
すみませんね、今は可愛くなくて、と言おうとして貴兄を見たら、その切れ長の目の端になんとうっすら涙を光らせている。
兄バカ…。
最近ちょっと私への過保護ぶりが心配な兄なのだ。
そんなことを思いながら、貴兄が赤ちゃんをあやしているのを見ていると、
「この赤ちゃんはこのまま地面に置かれてたのかな?」
貴兄がふと、顔を上げた。
「あ、ベビーカーに乗せられてたんだった!」
私は外に置きっぱなしにしていたベビーカーを店内に運んできた。
さっきは気づかなかったけど、ベビーカーの下のかごに何か荷物がある。
取り出して見ると、マザーズバッグと一通の手紙だった。
手紙にはこう書かれていた。
『花堂貴見様 この子をしばらくの間よろしくお願いします。必ず迎えに伺います。』
「貴兄、やっぱりこの子、貴兄の……!」
「違うから!!」
貴兄は珍しくちょっと慌てて、食い気味に否定した。
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