その五、爺さん

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その五、爺さん

 いや、二十一にも満たない若者が買っていたのだ。  彼らの親か彼ら自身が金持ちでもない限り、そんなに高い値段ではないだろうと落ち着く。無論、彼らと彼らの周りが金持ちだったというオチもあるが、その確率は低いだろうと。そんな事を考えている間に、いつの間にか薬局の前にまで来ていた。  彩椎〔サイシイ〕薬局。名から怪しい。それこそ妖しいキノコでも売ってそうだ。 「おや?」  と、怪しさ満点の薬局に二の足を踏み、中に入りあぐねていた若駒に声がかかる。 「お客さんかね。珍しい。いやいや、そういえば。うむ。あの二人に頼んだんじゃったわい。どうも認知症になったのか、物忘れが激しくてのう。ヤバい。ヤバい」  良く分からないが、一人でしゃべり、一人で納得してしまう変な爺さんが現れた。  その胸ポケットには赤い箱が見える。 「うむっ。お主は若駒有泰であろう?」  驚く。戸惑う。それはそうだろう。なんで名前を知っているんだ、と言葉を失う。 「ほほほ。もちろん、どうして、ここを訪ねて来たのかも分かっておるわい。なにせワシが、主を招いたじゃからのう。さっさ、中に入って、お茶でも飲みんさい」  いやいや、招いたって、爺さんと会ったのは今日が初めてなのに。なんでなんだ?  爺さんは人の都合など聞く気がないのか答えを聞かず、自分の都合を押しつける。  笑いながらも淡く芳しい紫煙を纏い。  なにも応えられず、動く事すら出来なくなった若駒の両腕を老人の力とは思えないような強い力で掴み、ぐいぐいと引っ張る。力に負け、ずるずると足を引きずりながら、彩椎薬局へとインする若駒。薬局の中は意外と普通で拍子抜けしてしまう。  少しの間があって、爺さんは、奥から温かい、お茶を入れた湯飲みを持ってくる。  若駒が、無理矢理、座らされた椅子の前にあった木の机にコトリと湯飲みを置く。  その後、  爺さんはトントンという軽快な音を立てて赤いタバコの箱からタバコを取り出す。  ライターを使いタバコに火をつける。  一気に煙を肺へと吸い込み、返すよう紫煙を口から吐き出す。 「ずばり言おうか。若返りの薬が欲しいんじゃろ?」 「なっ!」  目の前の爺さんと出会ってから驚きの連続で言葉を失い続けていた若駒だが、ここに訪れた目的すらも言い当てられてしまい、焦って、短い言葉を吐く。無論、事前に目的も分かっていると言われていたし、招いたとも言っていたにも関わらず。  それだけ、彼にとっては、望んでもないチャンスが訪れたと感じたからだろうか。 「ほほほ」  若駒は息をのみ、静かに続きを待つ。 「まあ、売ってやらん事もない。じゃが、あの薬は劇薬と言えるもの。メリットも大きいが、デメリットも、また大きい。……それでも欲しいか? 若返りの薬を」  上から目線のそれが気に入らないが、若返りの薬は欲しい。だから我慢する若駒。  そして、 「そ、そのデメリットというのは……」  と、そこまで言って、言いあぐねる。
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