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その六、デメリット
「なんじゃ。遠慮するな。言ってみろ」
若駒は、天を仰ぎ、大きく息を吸ってから続ける。
「値段とか。一般人には決して手を出す事が出来ないような価値だとか、そういう感じなんですか。若返りの薬が本物だったら、その可能性は在ると思うんです」
「ほほほ」
若駒の言葉を受けた爺さんが、聞いているのか聞いていないのか分からない笑み。
この飄々さは鼻につくが、それでも爺さんの人間性がそうさせるのか、憎めない。
「タダじゃよ。一銭もカネはいらんよ」
「へっ?」
間の抜けた声というか音というか、そういったものを不覚にも口から漏らす若駒。
それはそうだろう。若返りの薬なのだ。仮に、それが本物だとして、彼が、それを売る権利を持っていたとするならば、国家予算に匹敵する金額を積まれようとも売らないだろう。むしろカネには変えられない価値があるとさえも考えてしまう。
しかし、
ここは薬局で、薬を売っている、と考えると……。
売る事もあり得る。それでも、それなりの値を張るべき。国家予算とまではいかなくても、等しい価値を付けるべきだろう。少なくとも彼が経営者ならば、そうする。それを、タダでいい、カネはいらん、と言い放った。つまり、信じられないのだ。
いや、逆に考えればデメリットこそがそうさせているのかもしれない。タダにだ。
要するに、デメリットが大きすぎて若返っても、と考えれば。
じゃ、そのデメリットとは何なんだ?
と、若駒は考える。
「ほほほ。下手の考え休むに似たりじゃよ。いくら考えても分からんわい。主には」
小馬鹿にされた気にもなった若駒は、キッと、爺さんを睨む。
睨んではみたものの、何故だか、一気に肩の力が抜けてくる。
やはり、この爺さん、どうにも胡散臭いのだが、それでも憎めないのは何なんだ?
そんな若駒の様を見ても飄々としたまま二の句を繋ぐ爺さん。
兎に角。
「デメリットが問題なんじゃ。特に、お主のように勘違いで暴走するような輩にはな。じゃから、売る前に薬を得る資質が在るかどうか計らせて貰いたい。良いか?」
「資質ですか。それは、どういったものなんです?」
「うむっ。難しいものではないよ。若返ったあと、その人生を謳歌できるか、或いは、若返ったところで、なにも変わらないのか、とソレを知りたいだけの事じゃよ」
……敢えて言わなかったのだろうか。
若返ったところで不幸にしかならない可能性も在る、とでも言いたそうな爺さん。
その意図を汲み取った若駒は考える。
自分は、もう若くない。そして若返れば編集の見方も変わる。世間からの見方も変わる。小説家への道も拓ける。無論、より一層の努力をする必要はあるが、今の五十歳という年齢からの負荷はなくなる。だったら、俺の人生、バラ色じゃないか。
若返れば、それが手に入るのだから。
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