その八、結婚式

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その八、結婚式

 ここで、一旦、TVの映像が止まる。 「うむっ」  と爺さんが静かに頷きながらも言う。 「どうやら、お主は三十代に戻りたいようじゃな。相違ないか」  いや、出来れば、可能な限りでいいから若く、もちろん、子供までではなく若返りたいと考えていた若駒にとって三十代とは限定していない。ゆえに爺さんからの問いかけは寝耳に水的なものであったが為、慌ててしまい、直ぐには応えられない。  しかし、  何とか体勢を立て直して矢継ぎ早にも言葉を爺さんに投げる。 「いやいや、別に三十代とかでは考えてないです。むしろ可能ならば可能な限り、若返りたいです。この時は若返りなんてあり得ないって考えていたもので……」 「うむ。そうか。てっきり三十代でいいものだとばかり思ってしまったわ。ハハハ」  詫びるよう苦笑いしつつ言う爺さん。  こういう態度が、憎めなさを生むのかもしれないと思う若駒。  兎に角、 「そうですよ。そうです。単に三十代で課長になっておきたかったと思っただけで。もし出来るならば二十代で課長というもの、また、ありがたいものです。ハハハ」 「よかろう。では続きを見ようかのう」 「はいっ」  ハァァ。  TVの中で深く大きなため息を吐く。  さすがに、二回連続で、ため息から始まるのは若駒自身にも不甲斐なく思え、画面外で彼は苦笑う。その様を見たにも関わらず爺さんの表情は変わらない。むしろ、若駒とは、こういった人間なのだと理解したとでも言いたげな面持ちで見つめる。  今度は三十代の若駒であり、どうやら今日は結婚式のようだ。  せっかくの晴れ舞台なのであるが、ため息から始まるとは、どういう了見なのか。 「どうしたの。大きな、ため息なんかついて。あたしとの結婚がそんなに嫌なの?」  新婦の顔を見ても憂鬱な表情の若駒。  新婦と同じく爺さんも厳しい表情だ。  ハァァ。 「なんなのよ。本当に。そんなにも、この結婚が嫌なら、今からでも止めておく?」  ハァァ。  そう言われてしまっても止まらない若駒のため息。  ギリギリという鉄が軋むような音が聞こえてきそうな表情で彼を睨み付ける新婦。  若駒は、  ここまできて、ようやく新婦がおかしいと気づく。  慌てる。 「違うんだ。違うんだよ。君との結婚は目出度いさ。目出度い。むしろ、こんな俺と結婚してくれるなんて、この上なく嬉しい。もちろんね。君と出会えて良かった」  途端、新婦の表情が和らぐ。良かったと安心して。  しかし、  同時に、じゃ、なんで、ため息なんかついていたのかと疑問に思う新婦。そう思うと、いくらか和らいだ心が、また、ざわめき立つ。ただ、これ以上、その事を突っ込んでみても、せっかくの結婚式が台無しにもなりかねないと思い直す。  ハァァ。 「ただね。俺は二十代の若い頃に出会い、二十代の内に結婚しておきたかったんだよ。それが三十代になってしまったから、それが憂鬱で憂鬱で、たまらないんだ」  敢えて聞かない選択した新婦の気持ちも考えず、聞かれてもない事を答える若駒。  ハァァ。  と、ため息をつきたい気分になるのは、むしろ新婦の方だろうと爺さんは思った。
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