ブルー・ムーン

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

ブルー・ムーン

 お目覚めかい。    ふいに、囁きが洩れてきた。わたしの微睡んだ心にやわらかく触れてくる、静かでいてやさしいあなたの声。    やあね、ずっと起きていたわ。  からかいを含んだ声色に、わざとそう言った。本当はいつもと変わらない目覚めの声に、ちょっぴりほっとしている。けれど不安になった。わたしはときどき、自分でも知らないうちに眠ってしまうようだから。  あなたはほがらかに笑った。  君はいつも眠っているよ。僕のかたわらであらゆる喜びを夢見ながら。そう、まるで生まれたての星のようにね。  そんなことないわ。  わたしはむきになって言い返した。いつも眠ってなんかいないわ。だって、あなたの姿をずっと見つめているのよ。ふかくて広い暗闇の底でまぶしくたたずむ美しい姿を。  そうかな。  あなたはおだやかに笑っている。いつもいつもあなたはおだやかだ。明けることのない全てを眺め、ゆったりとした静寂(しじま)のながれに揺られ、星々のきらめきを心から見守っている。わたしも一緒に寄りそって。あなたのいとしむような横顔を見つめながら……  やれやれ、またお眠りだね。    くすぐるような笑い声。    君がいつ目覚めても、僕は必ずそばにいるよ。  眠らないわ、とわたしは呟いた。大丈夫よ。わたしだってあなたのそばにいて、あなたの横顔を見つめている。  あなたのそばにいるわ。  わたしもずっと……  宇宙の片隅で、二つの星が囁きあっている。  互いに寄り添い合って。  地球と月は、いつまでも……
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!