情熱の行方 #4 夏

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〈夏⑤〉♡☆★  その週末、僕は樹を自宅に誘った。 「迎えに行くから、駅で待ってて」 『はい。わかりました』  樹は素直に返事して電話を切った。 両親は二人とも用事や約束があって、出かけることになっていた。 自分が何をしたいのかはわかっていた。 あのキスの時、僕は自分の体の奥から熱いものが込み上げるのを、抑えることが出来なかった。そして、後ろめたさを感じながらも、樹を家に呼び寄せたのだ。 『親は、出かけてていないんだ』 樹にはそれとなく伝えた。 拒まれるかもしれないけど、覚悟の上だ。 さすがに無理強いするつもりはなかった。 駅前で待っていた樹は、僕を見つけると笑顔で手を振った。 「悪かったな。急に電話して」 「ううん。お休みの日にも先輩に会えるなんて、嬉しいです」  相変わらず樹は素直で可愛い。気後れして、僕の方が何も言えなくなってしまう。 二人で並んで歩きだした。 今日も陽射しが強い。 アスファルトの照り返しを受けながら、僕たちは何も話さず黙ったままだった。 すぐ目の前に見える、樹の白い(うなじ)にうっすら汗が光っていた。そこに触れたい衝動を抑えながら、僕は隣を歩き続けた。 赤信号で立ち止まった交差点で、不意に樹が僕の手に触れてきて、僕は思わずその手を握りしめた。少しだけ体温の低い樹の手は、真夏の暑さを忘れさせてくれた。  エアコンの効いた自分の部屋に戻ると、僕は大きく息をついた。樹は物珍しげに部屋を見回した。 「広いお家ですね。先輩って兄弟いるんですか」 「姉が二人いるけど、どっちも独立してここには住んでないんだ。上の姉は結婚してるし」 「そうなんですか。僕は一人っ子だから羨ましいな」 「今は僕も同じようなものだよ。何か飲む?」 「はい」  冷蔵庫には麦茶しかなかった。 そうだった… コンビニで買おうと思っていたのに、緊張して忘れてしまっていた。仕方なく二人分の麦茶を注いで、部屋に戻った。 テーブルにグラスを置くと、樹は微笑んだ。 「いただきます」  グラスを持ち上げて口をつけた。飲み込むたびに喉元が上下する。その仕草に見惚(みと)れてしまった僕は、樹から目が離せなかった。 半分ほど飲んで、樹はグラスを置いた。ふーっと息をつくと僕に微笑みかけた。 「冷たくて美味しい」  僕は黙ったまま立ち上がり、樹の隣に座った。 手を伸ばし、樹の冷たい唇に親指を触れてそっとなぞった。自分の鼓動が大きく速くなり、頭の中に響いてくる。樹が僕の手を掴むと、それが合図かのように僕は樹に口づけた。 「ん…」 樹の口から吐息が漏れ、僕の頬を撫でた。 その声に(ひそ)む色気に僕は身震いし、夢中で樹を抱きしめた。我慢できずに床に押し倒した。 樹は頬を染めて僕を見上げていた。 瞳が潤んで、息を弾ませている。 「…怖い?」  僕が尋ねると、樹は(うなず)いた。 やっぱり、そうだよな… そう思って僕が(ひる)んだ途端、樹が僕の腕をぎゅっと掴んだ。 「…でも、先輩になら、何されてもいい」 「樹…」 「僕の、全部に触れて欲しい…」  今にも泣き出しそうな顔で囁く樹が愛おしくて、僕は彼にまたキスをした。首筋を舌でなぞりながら愛撫すると、樹は僕の頭を抱えるようにしがみついた。 震える指でシャツのボタンを外し、襟元をはだけさせた。雪のように白く柔らかい肌に唇を触れ、敏感に感じているところを攻めた。樹がびくっと体を震わせるたびに唇から漏れ出す声は、僕を次第に(たかぶ)らせていった。 「あっつ…」  エアコンは十分に効いていたが、二人とも汗ばんでいた。耐えきれずに、僕はTシャツを脱いだ。 上半身裸になった僕を見て、樹はふいっと視線を逸らした。照れたその姿が可愛らしくて、僕は思わず微笑んだ。 「樹も脱げば」 「恥ずかしいから…」  上気した頬をますます赤くして、樹が消え入りそうな声で言った。そうは言っても、服を着たままするわけにはいかない。 僕は立ち上がってカーテンを閉めた。陽射しが強い昼間なのに、部屋は一気に薄暗くなった。 「これでいいだろ」  机の引き出しから(あらかじ)め用意しておいたローションを取り出した。 「僕も、男同士なんて初めてだからさ。痛かったり嫌だったら教えて。樹が嫌なことはしないから」  樹はこくんと頷いた。 僕は樹のシャツをそっと脱がせ、ジーンズのファスナーをゆっくり下ろした。下着の中に手を差し込み、ジーンズと一緒に尻からするっと脱がせると、樹はそれを制するように僕の腕に手をかけた。
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