情熱の行方 #4 夏

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〈夏⑥〉♡★★ 「あっ、やぁ…っ」  恥ずかしがる樹の耳元で囁いた。 「綺麗だよ、樹」 「先輩…」 「全部、僕に見せてよ。でないと触れないだろ」 「ん…」  頬を染めた樹は、片手の甲を口元に当てて目を閉じた。もう片方の手と合わせて隠すように両膝を曲げ、素直に僕にジーンズを奪わせた。 恥じらいながらも、僕が触れるのを待ちわびている。そっと腰に手を回すと、僕を誘うかのように白い肌がびくんと動いた。 「ずるい…。先輩も、脱いで…」  震えた小さな声なのに、僕にねだる樹が可愛かった。 「わかったよ」  僕も全部脱ぐと、樹はうつ伏せになって僕の枕を抱えた。愛おしそうに頬を寄せる。 「泉先輩の、匂いがする…」 「…何か、恥ずかしいな」 「安心する。包まれてるみたい…」  右手にローションを馴染ませると、僕は樹の中に指を()れた。 「あ…、んっ…」  初めてなのに、樹は僕の指をすんなりと受け入れた。それどころか、僕のぎこちない動きを樹は敏感に感じ取り、奥へと迎え入れる。 僕に体を(ゆだ)ねているせいか、指の数を増やしていっても痛がらないし、気持ちよさそうに目を閉じている。これ以上どんなふうにしたら樹が(よろこ)ぶのか、僕には見当がつかなかった。 「…もしかして、自分でもしたこと、ある?」  僕がそう尋ねると、樹は耳まで赤くなった。 「や…、聞かないで…」  答えたも同然の樹の可愛さに、僕は思わず口元が(ゆる)んだ。僕らの年頃で自分ですること自体は珍しい話じゃない。 それに、僕も女の子とは何度かしたことがある。もちろん、彼女たちの反応とは全然違うし、こっちは僕の知らない世界だったけど。 これが濡れている状態なのかどうかもわからなかったが、ローションのせいか抵抗がなかったので、樹に聞いてみた。 「…()れてみても、いい?」 「うん…」  向かい合って僕がゆっくり入っていくと、樹は眉間に皺を寄せた。 深いため息をついて、僕の腕にしがみつく。 樹の中はひんやりとしていた。 自分がとても熱いせいか、その温度差が気持ちよかった。二人で呼吸を合わせ、僕は樹の様子を(うかが)いながら彼の中に引き込まれていった。 すごい、全部入った… 「痛くない?」  樹は僕を見て微笑んだ。 樹の腰を少しだけ上げると、びくんと震えた。 「そこ、凄くいい…」 導くように囁いて僕に伝えた。 僕が奥まで届くと、樹の中で二人が繋がった感覚がはっきりとわかった。 僕はその体勢のままゆっくり腰を動かした。 樹は僕を離さないようにしっかり捉えて、動きに優しくついてくる。 「あ、あ…っ」  樹の指が僕の腕に食い込んだ。 声を上げ、(よろこ)んでいる樹はとても綺麗で、このまま腕の中に閉じ込めておきたいくらいだった。 汗が顎を伝って樹の胸元に落ちた。樹の体温も上がり、お互いの汗で抱きしめる手に力が入らない。樹の声と吐息が僕の耳に届くと、僕の体も一層熱くなる。 初めての快感に(たかぶ)った樹は、泣きながら僕にしがみついた。 「せんぱ…っ、僕、おかしく、なっちゃう…っ」  樹の狂おしい声が、僕の理性を奪っていく。 「僕もだよ…」  樹の中は優しく僕を締め付けた。 繰り返す動きに、快感がじわじわと押し寄せてくる。 僕だけのものにしたい 誰にも渡さない… 頭の中が樹でいっぱいになった。 他のどんなことも、ここまで僕を満たしてくれたものはなかった。 樹の声を聞きながら、僕は彼の中に溶けていった。  家の浴室は1階にある。 僕たちは裸のまま、バスタオルと服を抱えてそっと部屋を出ると、その狭い空間に二人きりで閉じこもった。 シャワーの栓を(ひね)って勢いよくお湯を出した。 「わっ」 まだ温まってない水が急にかかって、樹が笑った。 「気持ちいい」  前髪をかきあげて目を閉じ、しなやかに立ったままシャワーを頭から浴びている。 額から鼻先へ、唇から喉にかけてお湯が流れ落ちていく。柔らかい髪の毛が水を吸って、その先からも(しずく)が伝い落ちる。ただそれだけのことなのに、その姿が身震いするほど美しくて、僕は思わず樹を抱きしめた。 「樹…。ダメだ。僕、自分を抑えられない」 「泉先輩…」  僕は樹を壁の方に向かせると、華奢な腰骨を掴んで後ろから樹の中に入った。 さっきと違う体勢のせいか、樹は鋭く息を吸い込み、絞り出すように声を上げた。樹を気遣う気持ちがなかったわけではないが、その声は僕を求めているように聞こえた。 壁についた樹の指先が白くなり、力が入っているのがわかる。それでも中は僕を優しく受け入れる。僕はそれに安心して、樹の奥まで入り込んだ。 僕は樹の首筋を噛むように唇を這わせ、樹は悩ましい声で(こた)えた。 シャワーは僕の後ろから、二人を包むように流れ続けている。温かい水は僕たちの羞恥心と理性を残らず洗い流し、快楽だけを残していった。 このままずっと、樹を抱いていたかった。
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