我が道を行く

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「ありがとう。ここにいるみんな大好き。以上――くわあああっ!」 (お、おい。いい話じゃないか? 俺の心の全米が泣いた) (す、すまん、今喋ると涙が……)  涙だと?  それも気に食わない言葉だ。  小田も涙を流しながら言った。 「素晴らしいじゃないか。何でそんなに怒るの?」 「それは……」  俺は握りしめた拳を胸の前に立てた。 「姉ちゃんから褒められた直後の親父の顔を俺が一番最初に見たからだ……」 「う、うん」 「あのクソ親父。姉ちゃんが大事な手紙を読み終えた時、どんな顔してたと思う? 思います?」 「う、うれし涙で、顔がしわくちゃとか?」 「ノーーーーーウッ! 違う! あのクソ親父、招待された姉ちゃんの女友達のぉ!」 「と、友達の?」 「大きく谷間の見えるドレスの胸元を横目でちらっちらっと覗いていやがったんだよ。つまり――」 「どうした?」 「何が家族のために道路を作っていました、だ。道路工事の作業員は親父にとっては楽に金稼げるからってだけの話。拍手されて、褒められたことに初めて気づきやがった。情けなくて息子の俺は涙が出そうになったわ」 (ひ、ひどい親父だ) (そりゃめでたい結婚式でも怒りたくもなるよな) 「違う」  小田は否定の言葉を口にした。 「私には松田のお父さんの気持ちがわかる」 「おっぱい、おおきかった」 「うひひっ。って、違う! お前もしっかり見てるじゃんかよ。いや、まあ、お父さんは全く別のことを考えてないと涙が出てしまい、娘さんのお嫁に行く道を涙の洪水で通行止めしてしまうと知っていたからだ」  あの親が? バカバカしい。しかし小田を否定する気持ちはわかなかった。 「堪え忍ぶ。娘の結婚式で親が抱く気持ちがそれだ。お前も親になればわかる。まあ最短でも二五年くらい先の話だろうけどな」 「そ、そうなの? そうなんですか? よし。わかった」  俺は速足で三つ席が離れている児玉真美の前に立った。 「結婚してくれ。娘を嫁がせる親の気持ちを最短で知ってみたい」 「バカか、あんたは! 来た道に帰れ!」  いい軌道の平手がパシーンっと俺の右の頬に飛んできた。  倫理を教える小田は冷静に言った。 「自分のための道、我が道を行くのもよし。それでもブレーキは必要なのだということを知っておきましょう」  クラス中の拍手で本日の倫理の授業は終わった。 <終わり> 
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