我が道を行く

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 どんな物事にも道がある。  勉強のための塾に行く道。  友達と遊びに行くための道。  学校へ行く道、家に帰る道。  健康のために散歩する道。  抱えている問題を解決するための道――。  橋がかからないほどの断崖絶壁に大きな川や海でもない限りは、一歩踏み出して道を歩いて行けば必ず目的地に到達する。 「道を歩けば、おかしなところに到達しちゃうこともあるけどなあ」  俺は、俺を見てぽかんと口を開ける倫理の教師の小田に皮肉な目を向けてそう言ってやった。  ちょうど五秒後、小田はハッと正気を取り戻した。 「ま、松田……」  小田は眼鏡の位置を人差し指で直しながら言った。 「何かあったのかね?」 「先生が、道とは何かと、聞いてきたから答、えたまでだ。です」  今日の俺は機嫌がちょっと悪かった。 (ど、どうしたんだ? 松田のやつ) (あいつ、昨日は姉ちゃんの結婚式があったらしい)  俺を取り囲むクラスメートたちのざわめきの中に気に食わない言葉があった。  結婚、式。 「そ、そうか。松田。お姉さんが結婚されたのか。結婚式ってほ、ほら、あれだ、スピーチとか、あるじゃん?」 「じゃんって、先生……」  急にフレンドリーな口調になった教師の小田に俺の左ヒザが砕けた。歯を食いしばり、俺は踏ん張る。  小田は踏ん張る俺の表情を見て慌てて言葉を足した。 「いいぞう、結婚式は。子供とは何か、親とは何か、人間社会とは何かを教えてくれる」 (おい、先生は何言ってんだ?) (先生の子供は娘さんだけで息子さんはいないそうだぞ。全員お嫁に行ってしまったそうだ)  ざわつく教室内。またしても俺の耳に不快な言葉が飛び込んでくる。  親とは何か、だと?  お嫁に行ってしまっただと? 「くああああっ!」 「ひっ!? 松田、どうした? 落ち着け」 「これが落ち着ていられるものか! です」 「これとは何?」 「結婚式のスピーチと言ったな? 言いましたね?」 「あ、ああ。花嫁の手紙なんて涙なしでは聞いていられないぞ。お前もわかってくれたか? ああ? 新郎の手紙なんてどうでもいいからな」 (なんだそれ? 結婚式ってそんなイベントあるの? 自分の気持ちを書いた手紙を読まされるって、男なら大勢の人の前で素っ裸になるって気分だよな) (知るかよ) 「ああ。新婦の野郎のほうはどうでもいい。です。問題は、その花嫁の手紙の内容だ。くわあああ!」 「さ、差し支えなければ……教えてくれないか?」 「いいですとも」  俺は姉ちゃんが結婚式で読んだ手紙の内容を思い出しながら言った。  お父さん。お父さんは道路を作る仕事をして私たち家族の生活を支えてくれたんだよね。  道路を作る。  お父さんは、家の中でも外でも、私たち家族が迷わないための道路を作り続けてきたんだね。  私はお父さんが作った道路を歩いて、大好きな人のところにお嫁に行きます――。
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