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43章 長崎丸山遊郭
(一)坂の町の薬種問屋
長崎に着いた一行は、まずは源内や仁左衛門からの連絡が入っていないか、薬種問屋を訪ねた。
「仁左衛門さまからの文が、届いておりますね…」
新之丞が恐る恐る、文を開く。
「えぇと…長崎奉行所に行って勘定方の松山惣十郎に会え、と書いてあります。」
「長崎奉行所?」
「ええ。長崎奉行は町奉行と勘定奉行を兼務しております。長崎奉行所に送られるのは、将来の勘定奉行を支える選り抜きの役人と聞きます。お会いするのが楽しみです。」
吉田理兵衛が、長崎奉行所は御庭番も兼ねており、松山さまも御広敷伊賀者のお家柄です、と囁く。
「町奉行と勘定奉行と御庭番を兼任とは、長崎奉行所は、そうとうな激務だな。」
新之丞が仁左衛門の文を読み流していく。
「あとはいつものお小言です…なになに…最後に何か書いてあります。土産には長崎の白物黒物、現地より皆に買い送るべし…仁左衛門どのが好きな白物と黒物といえば…」
「あ、砂糖か。」
宇七と新之丞は顔を見合わせる。薬種問屋は舶来砂糖の輸入大卸もする。砂糖をたくさん買って藩邸に送れということだ。
「それはいい考えですな。砂糖は大阪商人が買い占めて何倍もの値段に釣り上げておりますから、長崎で買えばずいぶん安いはずだ、わたしもいくらか買いましょう。」
吉田理兵衛も、そういえば甘党だ。
「そういうからくりだから、江戸では高価な甘い菓子が、佐賀や長崎あたりでは我々も手が届くんですな。」
「そのようですな。」
新之丞が他に文がないか、尋ねるが、問屋の手代はもうこれだけだ、という。長崎奉行所に行くため、一同は薬種問屋を後にした。
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