43章 長崎丸山遊郭

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(三)源内からの請求書 数日後、江戸の源内から大きな木箱が届いた。宇七が箱を開けてみると、一番上には手紙が載っている。 「…覚書(おぼえがき)、源内櫛象牙歯二十本、源内櫛銀歯三十本、自惚れ鏡二十枚、金唐紙十種見本…金五十両也…?」 「請求書ですか?源内先生は、宇七どのから品代を取るつもりでしょうか?」 「そのようだな…最初の荷を俺が失くしたから、二度目はおまえ買い取れ、ということらしい…」 荷から目を離した自分が悪い…とは分かっているものの、源内もちゃっかりしている… 「頑張って売らないとですね…」 「ああ。」 「わたくしも今日からさっそく、エレキテルに関する蘭書を探しに出ます。」 新之丞はそう言って張り切って部屋を出ていったが、すぐに戻って来た。 「旅籠の入り口に、奉行所の松山惣十郎どのが。」 ふたりはそろって、こっそりと外を覗く。吉田理兵衛が頭を下げて松山を出迎えている。 「じきじきにここまで来るとは…お理どのを連れに来たのでしょうか?」 「ああ…たぶんな…あっ、お理どのが出て来たぞ!」 お理は男の姿ではなく、娘らしい明るい色の着物を着ていた。 「なかなか…遠目では可愛いではないか。馬子にも衣装だな。」 「いまさら何を言っているのです、宇七どのときたら、近眼のわたくしよりも目が悪い。」 「松山さまがじきじきに見番に送るとはよほどだが、吉田どのもあれほど反対していたのに、よく許したものだ…ちょっと理兵衛どのの様子を見て来る。」 「ええ。そのほうが良いかと。」 吉田理兵衛は娘が芸妓見習いに行ったのを、ひどく恥じているようだった。 「吉田さま…」 「あぁ、宇七郎どの…わたしは娘に、勝手気ままをさせ過ぎたらしいですな…」 「それほど気に病まれることはありませぬ、見番は芸者の詰め所で、唄や踊りの稽古の場です。見番で蘭語を学ぶだけなら、おかしなことは起きないでしょう。」 そう宇七が慰めると、それでも娘の周りに芸妓がたくさんいると、何を聞かされるかわからぬ、と理兵衛は心配そうだ。 「嫁入り前に耳年増になっては困ります…芸妓修行をしたなどと評判が立てば嫁にも行きづらい…」 「…」 理兵衛の人柄を知るだけに、心労は察して余る…宇七はしばらくあれこれ話相手をしながら、理兵衛が落ち着くまでそばにいた。 「お理どのは、蘭鉄の窯の仕掛けを学ぶために体を張って蘭語を学ぶのです。わたしもできるだけ、お理どのを守りますよ。」 「かたじけない。よろしく頼みます。」
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