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街での買い物 ②
「僕はあっちの通りを探すから、君たちは向こうを探して」
路地の方を指差すと、
「お坊ちゃまを1人にできませんし、オメガであるお坊ちゃまも流行病にかかってしまうかもしれません。ミカエル様とサイモン様は私達で探しますので、お坊ちゃまは馬車でお待ちください」
「でも……」
「お坊ちゃまのお体を守ることも、私たちの役目です」
使用人達は僕に付き添いを1人つけ馬車に乗せると、ミカとサイモンを探しに行った。
どうか早く見つかりますように。
胸に手を当て願う。
太陽が傾きかけ、夕日で街がオレンジ色になった頃、ミカとサイモンが馬車に戻ってきた。
「ミカ!」
馬車に乗り込んできたミカはをきつく抱きしめる。
よかった。顔色もよくて咳もしていない。
「ミカ、気分悪くなったりしてない?」
「大丈夫だよ。でもレオもみんなも、僕に気分は悪くないかって聞くし、何かあったの?」
「寒くなってきたから、ちょっと心配になっただけだよ」
そう僕は微笑んだ。
ミカには心配させたくなくて、流行病のことは話さない。
サイモンをちらりと見ると、サイモンは小さく頷く。
サイモンは使用人から聞いて、知ってるんだ。
「ねぇ、僕、今日は絶好調だから、もう少し違う場所に行きたいな。例えば街が見える丘の上とか」
街が見える丘の上。
僕とサイモンが行った、あの丘の上。
ミカは僕とサイモンが、そこに行ったことを知っているんだ。
ミカはきっと自分だけ仲間はずれにされたことが、悲しかったんだ。
可愛くミカにお願いされて本当は連れて行ってあげたいけど、これ以上、ミカを連れ回せることはできない。
「でも今日はもう遅いから帰ろう」
僕がそういうが、ミカは頬を膨らませ唇を尖らせ「嫌だ!」とそっぽを向く。
「ごめんねミカ。本当は僕も連れて行ってあげたいんだ。でも今はだめ。もし無理して体調を崩してしまったら大変なことになってしまう」
「そんなこと言って、本当はサイモンと2人きりで行ったところに、僕を連れて行きたくないだ!」
ミカの目に涙が浮かぶ。
「そんなこと思ってない!本当はミカとも一緒に行きたいよ。それでも、それでも、もう家帰らないと」
「嫌だ、帰らない!」
イヤイヤとミカは頭をブンブン振る。
こうなるとミカは意地を張ってしまって、どうしようもなくなる。
「お願いだよミカ……」
「……」
返事をする代わりに、ミカはそっぽを向いたまま。
どうしよう……。
チラリとサイモンを見ると、
「今日は遅いから行けないけど、明日の朝、俺が出発する前に連れて行ってあげるよ」
サイモンがミカの頭を撫でる。
「あそこは馬車では行きずらいから、俺の馬に乗せてあげるよ。だから今日はもう帰ろう」
「約束だからね」
ミカが小指を差し出すと、
「ああ約束」
サイモンはその小指に自分の小指を絡ませた。
どうしよう。
2人を見ていると胸が苦して、涙が溢れそう。
僕の初恋がもうすぐ終わるカウントダウンが近づいてくるたび、サイモンとミカの笑顔を見るのが辛い。
大丈夫。大丈夫。きっと僕は大丈夫。
この恋が終わっても、きっと次に進んでいける。
早く誕生日がきて欲しい。
こんな苦しい気持ちは早くなくなって欲しい。
永遠に誕生日なんてこなければいい。
そうすればサイモンとずっといられる。
誕生日なんて……。
誕生日なんて……。
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