プロローグ

1/1
968人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ

プロローグ

「母様、テストで満点取ったんです!」  僕が母様の前に満点のテスト用紙をだしても、 「そう。それより氷を持ってきてちょうだい。可哀想に、ミカエルがまた熱を出してしまったのよ」  そう言って母様は僕の方すら見ずに、忙しそうにミカエルの部屋に向かう。 「父様、乗馬大会で一位だったんです」  僕が騎馬大会の表彰状を出しても、 「そうか。そんなことよりレオナルド。医者を呼んできてくれ。ミカエルが咳をしはじめたそうでな。今回は拗らさなければいいが……」  そう言って父様も僕を見ることなく、大股で僕の傍をすり抜けて、ミカエルの元へ急ぐ。  ぽつんと廊下に残された僕の傍を、慌ただしく使用人たちも通り過ぎて行く。  僕は他の誰の目にも映らない。  まるで透明人間。ただの空気と同じだ。  父様、母様。  僕はただ「よく頑張ったね」と、頭を撫でてほしかっただけなんです。  他には何も望みません。  僕は父様と母様に、僕という存在を見て欲しかったんです。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!