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流行病 ④
ミカが部屋に来てくれ、お茶を飲んだ時は体が軽くなっていたのに、明け方、急に症状が悪化した。
高熱が出て下がらない。嘔吐が止まらずっとベッド横においた洗面器に吐いていた。
食事が喉を通らない。食べられたとしても、すぐに吐いてしまう。
頭の中はグラグラ揺れる、ベッドで横になっているのに体がフラフラしているような感じになる。
僕の名前を呼ぶ侍女の声が遠くなっていくのを感じながら、僕は深く暗い穴の中に落ちていった。
そう、僕は流行病にかかっていたのだ。
暗いトンネルを抜け、次に目覚め目を開けた時、僕は自室とは違う天井の下にいた。
ゆっくりと体を起こすと、体のふらつきも気も気悪さも熱もなく、スッキリしている。
あたりを見回すと、そこは僕の部屋ではなくミカの部屋だった。
どうして僕がミカの部屋にいるの?
ゆっくりとベッドから体を起こし、部屋の中を見回しながら歩いていると、
ーガチャン!ー
背後で何かが落ちる音がし、ハッと振り返る。
「お坊っちゃまが、お坊ちゃまが、お目覚めになった!」
持っていただろう湯が入った洗面器とタオルを床に落としたまま、侍女が目を潤ませている。
「お坊ちゃま、お加減はいかがですか?痛いところはございませんか?ご気分はいかがですか?」
そういいながら、侍女は僕に近づいてくる。
「だ、大丈夫。どこも悪くないよ」
「本当ですか?」
「う、うん……」
侍女の気迫に呆気に取られていると、
「ちょっとお待ちください。今すぐ旦那様と奥様にお知らせしてきます。それまでミカエル様はベッドでお待ちください!」
え?今、僕のことミカエルって言わなかった?
ー僕、ミカエルじゃないよー
そう言う前に、侍女は急いで部屋を出て行った。
しばらくすると、ドタドタと誰かが廊下を駆けてくる音がした。
何事?
廊下に様子を見に行こうと起き上がったと同時に、ミカエルの部屋のドアは開けられ、父様と母様、お医者さんに数人の使用人が入ってくる。
「ああミカエル!」
母様が僕をキツく抱きしめる。
「本当に心配したんだよ」
父様も僕を抱きしめる。
侍女だけじゃなくて、父様と母様も僕のことをミカエルとおっしゃっている。
僕たちは大きくなるにつれて見分けがつきにくく、毎日会っている使用人たちですら、僕たちが着る服の色でしか、どちらが僕でどちらがミカか、わからなくなっていたとはいえ父様と母様は
きちんと見分けられていた。
なのにどうして、今、僕のことをミカエルって呼ぶの?
「旦那様、奥様、少し失礼します」
お医者様が僕の目の前に現れ、目の様子や心音を聞かれる。
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