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流行病 ⑤
「熱もさがっておられ、胸の音も綺麗です。ご安心ください。ミカエル様は病に打ち勝たれました」
「本当ですか!?先生、ありがとうございます!さ、お茶の用意をさせますので別のお部屋でお待ちください」
父様が使用人たちに目配せをすると、使用人たちは父様に一礼して部屋を出ていった。
部屋には父様、母様、僕の面倒をみてくれていた侍女、そして僕の4人だけになる。
「ミカエル、大事な話がある」
「父様、僕ミカエルじゃなくてレオナルドだよ」
いくら父様たちがミカのことが大好きで大切だからって、僕とミカを見間違うなんて悲しすぎる。
「ああ。そのことで話がある。ベッドのヘリに座りなさい」
父様に促されるまま、僕はベッドのへりに座り、父様と母様は僕の両隣りに座った。
「今から話すことは、とても重要で誰にも話してもいけない。それがたとえサイモンでも、だ。誰にも言わないと約束するか?」
今まで見たことのない父様の表情に、僕は大きく頷いた。
「レオナルド、ミカエルは死んだ」
「……え……?」
父様が何をおっしゃっているのかわからず、思考が止まる。
「今……なんて……」
「ミカエルは、死んだ」
父様はもう一度、今度ははっきりと言う。
「ミカエルは……死んだ……?どういう、ことですか?」
ミカが死んだ?
信じられない。
だってミカは昨日、僕にお茶を淹れにきてくれていたじゃないか。
僕の知っているミカは、元気で体調が良さそうだった。
だったらどうして?
父様と母様は僕に嘘をついている?
でもどうしてそんな嘘をつくの?
それにどうして僕のことを『ミカエル』って呼ぶの?
「ミカは……ミカは、どこですか?」
「……」
「ミカの体調はどうなんですか?」
「……」
「どうしてここにミカはいないんですか?」
「……」
「どうして僕は、ミカの部屋のミカのベッドで眠っていたんですか?」
「……」
「どうしてみんな僕のことを、ミカエルって呼ぶんですか?」
「……」
「どうしてですか!?どうしてそんな嘘をつかれるのですか!?答えてください!ねぇ父様!母様!」
僕はベッドから立ち上がり叫び、部屋の中には僕の声だけ響く。
「レオナルド座りなさい。座って落ち着いてしっかりと聞くんだ」
父様は落ち着いて話し始められた。
ミカエルはサイモンに丘の上に連れて行ってもらい、上機嫌で帰って来て、そのままサイモンを見送った。
体調もよく元気だったので安心していたが、その晩、急に容態が悪化し三日三晩、高熱と嘔吐を繰り返し4日目の夜中、眠るように亡くなったと話された。
でもそんな話嘘だ!
だってミカは元気な姿で僕に会いにきてくれたじゃないか!
額に掌を当ててくれたり、お茶だって淹れてくれた。
「そんなのは嘘です!サイモンが帰った3日後の夜中、ミカは元気な姿で僕に会いにきてくれていました!僕のことを心配して、会いにきてくれてました!ミカだけが僕に会いにきてくれてました!」
ほぼ叫ぶように言っていた。
「そう、だったんだな」
みるみるうちに父様の目に涙が浮かび、母様は手で口を塞ぎ、鳴き声を抑えている。
「ミカエルはレオナルドにお別れを、言いに行っていたんだな」
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