流行病 ⑤

1/1
前へ
/90ページ
次へ

流行病 ⑤

「熱もさがっておられ、胸の音も綺麗です。ご安心ください。ミカエル様は病に打ち勝たれました」 「本当ですか!?先生、ありがとうございます!さ、お茶の用意をさせますので別のお部屋でお待ちください」  父様が使用人たちに目配せをすると、使用人たちは父様に一礼して部屋を出ていった。  部屋には父様、母様、僕の面倒をみてくれていた侍女、そして僕の4人だけになる。 「ミカエル、大事な話がある」 「父様、僕ミカエルじゃなくてレオナルドだよ」  いくら父様たちがミカのことが大好きで大切だからって、僕とミカを見間違うなんて悲しすぎる。 「ああ。そのことで話がある。ベッドのヘリ(ここ)に座りなさい」  父様に促されるまま、僕はベッドのへりに座り、父様と母様は僕の両隣りに座った。 「今から話すことは、とても重要で誰にも話してもいけない。それがたとえサイモンでも、だ。誰にも言わないと約束するか?」  今まで見たことのない父様の表情に、僕は大きく頷いた。 「レオナルド、ミカエルは死んだ」 「……え……?」  父様が何をおっしゃっているのかわからず、思考が止まる。 「今……なんて……」 「ミカエルは、死んだ」  父様はもう一度、今度ははっきりと言う。 「ミカエルは……死んだ……?どういう、ことですか?」  ミカが死んだ?  信じられない。  だってミカは昨日、僕にお茶を淹れにきてくれていたじゃないか。  僕の知っているミカは、元気で体調が良さそうだった。  だったらどうして?  父様と母様は僕に嘘をついている?  でもどうしてそんな嘘をつくの?  それにどうして僕のことを『ミカエル』って呼ぶの? 「ミカは……ミカは、どこですか?」 「……」 「ミカの体調はどうなんですか?」 「……」 「どうしてここにミカはいないんですか?」 「……」 「どうして僕は、ミカの部屋のミカのベッドで眠っていたんですか?」 「……」 「どうしてみんな僕のことを、ミカエルって呼ぶんですか?」 「……」 「どうしてですか!?どうしてそんな嘘をつかれるのですか!?答えてください!ねぇ父様!母様!」  僕はベッドから立ち上がり叫び、部屋の中には僕の声だけ響く。 「レオナルド座りなさい。座って落ち着いてしっかりと聞くんだ」  父様は落ち着いて話し始められた。  ミカエルはサイモンに丘の上に連れて行ってもらい、上機嫌で帰って来て、そのままサイモンを見送った。  体調もよく元気だったので安心していたが、その晩、急に容態が悪化し三日三晩、高熱と嘔吐を繰り返し4日目の夜中、眠るように亡くなったと話された。  でもそんな話嘘だ!  だってミカは元気な姿で僕に会いにきてくれたじゃないか!  額に掌を当ててくれたり、お茶だって淹れてくれた。 「そんなのは嘘です!サイモンが帰った3日後の夜中、ミカは元気な姿で僕に会いにきてくれていました!僕のことを心配して、会いにきてくれてました!ミカだけが僕に会いにきてくれてました!」  ほぼ叫ぶように言っていた。 「そう、だったんだな」  みるみるうちに父様の目に涙が浮かび、母様は手で口を塞ぎ、鳴き声を抑えている。 「ミカエルはレオナルドにお別れを、言いに行っていたんだな」
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

993人が本棚に入れています
本棚に追加