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流行病 ⑥
ーお別れー
その言葉が頭の中で響く。
ミカが来てくれたのは、決してお別れのためじゃない。ミカは元気だったから、僕の様子を見に来てくれていただけなんだ。
だけど、ミカが言っていた言葉がずっと引っかかっている。
ーもう少ししたら僕は遠くに行っちゃうけれど、僕はずっとレオのことを見ているからねー
やっぱりミカは僕にお別れをしに来てくれたんだろうか?
本当にそうなの?
ねぇミカ、僕はお別れなんてしたくなかった。
ずっとずっと一緒にいたかった。
ミカと一緒に外で遊びたかった。
あの丘の上にある木の下で、一緒に本を読みたかった。
僕とミカ、服を交換して、また入れ替えごっこのイタズラもしたかった。
みんなを驚かせたかった。
またサイモン間違えるかな?って話しながら、笑っていたかった。
それにサイモンとミカの結婚をお祝いしてあげたかったし、2人で行った感謝祭の話も聞きたかった。
もっとミカのわがまま聞いてあげたかった。
もっとミカの笑顔が、見たかった……。
もっと、もっと、もっと……。
「お別れなんて、嫌だ……。お別れなんて、嫌だ。嫌だ。嫌だ!嫌だ!!」
ミカとお別れなんてしないし、きっとこれはミカのイタズラだ。
そうだイタズラだ。
探しに行かないと。
僕はミカを探しに行かないと!
スクっと立ち上がる。
「ミカを探しに行ってきます」
一歩を踏み出そうとした時、父様に腕を掴まれた。
「レオ、ミカはもういない。どんなに名前を呼んでも、どんなに探してもいないんだ。レオ、ミカはもういない」
いつもは威厳があり、厳格な父様の目から涙が溢れる。
ああ、本当にミカは死んでしまったんだ。
もうこの世には、ミカはいないんだ……。
父様の涙を見て、ミカの死を認めざるをえない。
「父様、ミカは苦しまずに神様のところに行けたのですか?」
「ああ。微笑みながら天に召されたよ」
よかった。
よかったねミカ。
もう苦しくないよ。
「これからミカが眠るお墓にお花を持って行ってもいいですか?」
たくさんたくさんミカの好きな花を用意しよう。
それから毎日ミカに会いに行こう。
「それなんだがレオ、ミカのお墓はない……」
「え?」
父様が何をおっしゃっているのか、理解できない。
「じゃあミカは、今、どこで眠っているのですか?」
「ミカは眠っていない。今この瞬間から、レオ、お前はミカエルだ」
「!!」
父様は何をおっしゃっているのだろう?
今日から僕がミカ?
どう言う意味なんだ?
「今日からお前はミカエルで、18歳の誕生日が訪れたら、お前はミカエルとしてサイモンと結婚するんだ」
「!!」
今度こそ何をおっしゃっているのか、何をおっしゃりたいのか理解できない。
「流行病で死んでしまったのはレオナルドで、助かったのはミカエル。お前だ」
「ち、違います!僕はレオナルドでミカエルじゃないです!父様、間違っておられます!」
「間違っていない!」
今度は父様の声が部屋に響く。
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