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流行病 ①
翌日サイモンは約束通りミカを馬に乗せて、丘の上に行った。
僕も一緒に行かないかと誘われたけれど、微熱が出ていたので自室でゆっくりすることにした。
これが流行病だったらどうしよう。
体が弱いミカにうつしてしまったらどうしよう……。
昨日、帰った時にすぐ父様や母様に流行病の話はしたから、ミカが僕の部屋に来ることはないだろう。
もし流行病だったとしても、僕は体が強いからきっと大丈夫。
でも、もし……。
僕……死んじゃうのかな……?
死ぬことは怖いけれど、今はそれが自分ごとではないようにも思えてくる。
それより体が弱いミカがうつってないか心配。
今朝は元気そうだったけど、大丈夫かな?
そんなことを考えながら、うとうとしていると、コンコンコンとドアをノックする音がする。
「誰?」
「サイモンだよ。入っていい?」
優しいサイモンの声がした。
「ダメ」
僕はサイモンの申し出を断った。
本当はサイモンが帰ってしまう前に、ひとめ会いたかったけれど、もし僕が流行病だったら大変だ。
「どうして?」
「どうしてって、うつしてしまうかもしれないじゃない」
「俺は体力あるから、大丈夫」
「そんなのわからないじゃないか」
「わかるよ」
「わかんない!」
「レオ……。ここを出る前に、少しでも会いたいんだ。お願いだレオ。ここを開けてくれ……」
切そうなサイモンの声に、心が揺らぐ。
それでも会うことはできない。
「サイモン。これが最後じゃないじゃない。僕が元気になって、次会うのはミカとサイモンの結婚式がいい。さよならサイモン、気をつけて帰ってね」
そう言うと、サイモンは何度か僕の名前を呼びながらドアを叩いたが、最後には僕の世話をしていた侍女に促され、僕の部屋の前からいなくなった。
これでいい。これでいいんだ。
夕方、医師がやってきて診察してもらったけれど、今の段階ではまだ流行病なのか、普通の風邪なのかわからないとのことだった。
ミカの体調が悪くなった時は、父様と母様、2人とも付き添ってくださっていたのに、僕の時はどちらも来てくださらない。
流行病かもしれないから仕方のないことなのかもしれないけれど、それでもやっぱり寂しい。
僕たちが小さい頃より世話をしてくれている侍女が1人、僕に付き添ってくれているだけで他の誰も来てくれない。
食欲がなくなってきても、気分が悪くなってきても、熱が上がりはじめても、僕は1人。
ベッドで気休め程度の解熱剤を飲んで寝ているだけ。
僕は本当にこのまま死んじゃうの?
1人で死んじゃうの?
怖い。寂しい。
誰かそばにいてほしい……
それとなく世話をしてくれている侍女に、父様と母様に会いたいと伝えてもらったけれど、父様たちは「ミカエルにうつしてしまったら大変だから」と、来てはくださらなかった。
僕はどこまでも孤独だ。
やっぱり最後にサイモンに会っておけばよかった。そうすれば心残りはなかったのに……
次の日も、その次の日も、だれも見舞いに来てはくれなかった。
体調は悪くなり続け、徐々に僕の体力を奪っていく。
本当に僕は死ぬんだ。
そう確信したのはサイモンが帰ってしまって3日目だった。
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