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 死者を呼び戻すバードの能力を目の当たりにしたのは、実のところこれが初めてではなかった。けれども、再生されていくその存在感の見事さに、やはり僕は目を見張る。  生ける者たちにとって永劫の向こうに走り去ったはずの死者が、息吹を持ってどこかの場所に確かに存在し続けているのだということを知る不思議。  肉体が滅びてもなお生き続ける魂と向き合うことの不思議。  バードといることで僕は、世界の成り立ちが、かつてそう思い込んでいたものよりも複雑で奥深く計り知れないのだということを考えずにはいられない。  青年は目を開けた瞬間、自分の置かれた状況が把握できずにきょろきょろとあたりを見回した。突然生のくびきに繋がれた死者は、ベッドの端に腰を下ろした幼馴染の少女を見つけ、ぎょっとした顔で飛びのいて、それからこわごわといった調子で声をかけた。 「え……エストーラ?」  懐かしい声を聞き分けたのか、エストーラは驚いた顔で目を開けた。 「マール?」  彼女はベッドから思わず立ち上がり、駆け寄って彼の腕を取った。 「マールなの? 本物の?」  腕の感触を確かめ、青年の頬に触れ、首筋の傷跡を確認して、彼女は確信したようだった。 「マール、マールなのね。本当にあなただわ」 「エストーラ……どうしてここに?」  青年は不安げに問い返す。 「君……君も処刑されたのか? カイアル様は君だけは減刑されるだろうとおっしゃっていたのに」  エストーラは哀しげに首を振って答えた。 「カイアル様のおっしゃったとおりよ。私は処刑されずに生き残ったの。都に送られて、罪を償うために服役することになったわ」 「だったらどうして……」  青年の声が大きく揺れる。 「処刑されたのでなければ、君……君はどうして……」  彼女は少し首を傾げて言葉を捜し、ややあって口を開いた。 「落ち着いて聞いてね、マール」  とても静かな声だった。 「私があなたのところに来たわけではないのよ。私はちゃんと動いて息をしているの。あなたが一時、私の元に呼び戻されたのよ」  そう説明しながらエストーラは、青年の肩越しに、床に横たわる僕に視線を向けた。 「私と一夜を過ごすために、あなたはここに戻ってきたの」 「なぜ?」  呆然とした顔で、青年は口を開く。 「俺は死んだはずだ。それがなぜこんなところにいるんだ? 君と一夜を過ごすといった? なら、世が明けたらまた俺は、空気のように消えてしまうのか?」  エストーラはなぜか確信を込めてかぶりを振った。 「あなたを甦らせているその身体は消えてしまうわ。でも心はなくならない。あなたは決して消えてなくなったりしない。だってあなたは死んだけれども、今ここにいるでしょう? 私があなたを想っているかぎり、いいえ、もしかすると私の想いとも関係なく、あなたはどんな形でか、どこかに存在しているんだわ」  エストーラはもう一度ベッドに腰を下ろし、青年の腕をそっと引っぱった。 「急いで、マール。夜は短いわ」  あっけに取られた顔の青年は、しかし、慌てて彼女の手を振り払った。 「駄目だ、エストーラ」  見上げる彼女に、彼は言った。 「俺はもう死んでいるんだろう。ならば、君を抱くことはできない」 「なぜ?」 「夜が明ければ俺は消えてしまうんだろう? 俺はもう、君を幸せにすることができない。だから君を腕に抱く資格は俺にはないよ」  エストーラは笑った。 「マール、あなたがそうしてもしなくても、夜が明ければ私は一人ぼっちよ。でも、私もいずれ死ぬわ。そうすればいつかまたあなたに会える。そのときには二人とも身体はなくて、触れ合うことはできないかもしれないけど」  マールは僕の存在に気づいていないようだった。あるいはバードがその力で、僕の姿を見えなくしていたのかもしれない。  エストーラはとても賢い娘だ。恋人達のために、僕は目を閉じ何も見ないようにした。
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