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1.
「いらっしゃいませ!」
ランチタイム、僕は引っ切り無しに入るオーダーを
店長である進藤さんと二人で捌いていた。
「いずみちゃん、これ1番さんにお願い!」
進藤さんは声を張り上げながらデシャップ台に
Aランチのパスタを滑り込ませた。厨房での作業音や換気扇の音、更にはホールから聞こえてくる客の声やBGMのせいで、厨房とホール間のコールはお互い声を張らなければ聞こえない。
「はーい!」
ホール担当のいずみちゃんもまた声を張り上げる。
「さやかさん、5番さんピザ上がりました!お願いします!」
「はーい!」
僕もまた声を張り上げホール担当のさやかさんを呼ぶと、デシャップ台にBランチのピッツァを滑り込ませた。
僕の勤める店カジュアルなイタリア料理店「porta fortuna(ポルタ フォルトゥーナ)」はオフィスが立ち並ぶ街中にあった。ランチタイムは11時から15時ディナータイムは17時から22時までの営業だ。
アルバイト時代からこの店に世話になって10年以上経つ。最初はこの忙しさについていくのに精一杯だった僕も、今では二段構えのデシャップ台の隙間からホールの様子を伺えるまでになった。
「オーダー入ります!Aランチ1、Cランチ2です!」
「了解!いずみちゃん、2番さん食事終りそうだからドリンクお願い」
「分かりました!」
オーダーを受けながらチラリと客のテーブルが目に入り、いずみちゃんに食後のドリンクの指示を出す。
メイン料理以外のドリンクの用意はホール担当の仕事だ。
「進藤さん、Aいけますか?」
「OK!」
「ありがとうございます!」
僕は進藤さんに声をかけるとCランチのリゾットの
調理に入った。
『質』を落としてはいけないが、ランチタイムはとにかくスピード勝負だ。オフィス街と言う事もあり、
昼時は休憩時間のビジネスマンやOLでごった返す。
どの客も長居はせずに、サッと食べて帰って行くため店の回転が早い。どれだけ自分達が捌けるかによって、ランチタイムの評判、さらには売り上げに影響してくるのだ。
近隣はカフェ、カレー屋、うどん屋、ラーメン屋、
洋食屋、寿司屋など…とにかく飲食店が多い激戦区。その中でこの店は20年以上続いている。新しい店が出来ては閉店していく昨今において老舗と言っていいだろう。決して大きな店ではないが、味は勿論の事、
接客や雰囲気などがいいと評判で長年この辺りの
オフィスワーカーから愛されていた。
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