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あの日、坊は、突然起きた戦に怯えるばかりだった。
母と坊は、親戚のうちを訪ねた帰りだった。なんだか侍がたくさんいるし、雰囲気がおかしいよと言われ、急いで帰宅する最中のことだった。
大砲がぼうんと鳴り、母と坊の側の家が木端みじんになって飛んだ。母は坊を庇った。坊は母に突き飛ばされて河原を転がり落ち、しばらく失神した。
坊が目を覚ました頃、戦いは少し離れた場所に移っていた。ぼうんぼうんという音は未だ続いていたが、わあわあというときの声や、刃を切り結ぶ恐ろしい気配は、もう消えていた。
燻るような臭気が立ち込め、煙たさのために目を開いていたら痒くなった。ざあざあと川は流れており、喉が渇いていた坊は水を掬って飲んだ。顔を水につけていると、ごとんと頭になにかが当たった。
甲冑を被った男の体が、ゆっくりと流れてゆくところだった。
かあちゃん。
坊は叫ぶと河原を駆けあがった。駆けている最中も、何度も躓いた。あちこちに冷たくなった血みどろの身体が転がっており、その一つ一つが、お化け以上に恐ろしかった。
母を求めて道の上に走り出ると、そこにはあらゆる希望を粉砕するような情景が広がっていた。
坊は幼い胃袋を痛くして、その場で嘔吐した。
そして、母を求めて歩き回った。
三日三晩歩いても、母は何も答えなかった。
ついに坊は力尽きて草むらに倒れ込み、泣きはらした顔で眠り込んだのである。
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